「文明の同盟」に活路模索も

多難な年明けのトルコ(5)

 最近、国連で注目されている平和プロジェクトのひとつが「文明の同盟」プログラムだ。テロや難民問題の背景にある宗教や民族・人種に根を持つ過激主義を克服するため、異なる文明間の交流・対話・協力を推進しようというアプローチだ。同プログラムでは、ほぼ毎年、「グローバルフォーラム」と呼ばれる大規模な国際会議を、さまざまな文明・文化を代表する国々が持ち回りで開催してきた。また異なる宗教や文化の誤解・偏見を取り除くために、メディア、教育、若者といった分野での対策が研究され実行されている。

エルドアン大統領

トルコのエルドアン大統領2015年12月、アンカラ(AFP時事)

 さらに貧困削減、格差是正、環境保護などを目指す、国連「持続的開発目標」の進展にも、文明間の同盟が不可欠だ、として期待が高まっているのだ。

 これは2001年の「9・11同時多発テロ」の衝撃をきっかけに、イスラム文明と欧米文化との調和を図ろうとして、2005年の国連総会でスペインのサパテロ首相(当時)が提案したものだが、それにいち早く賛同し、事実上、共同提案国として推進してきたのがトルコのエルドアン首相(当時)だった。

 昨年10月中旬、イスタンブールで「アジア太平洋諸国イスラムリーダー会議」が開かれ、37カ国、125人の代表が参加した。イスラム教育の在り方、宗教協力、少数派ムスリムの問題、そして各国の現状などが協議された。その会議に招かれた日本のイスラム団体の関係者によれば、主催したトルコ側には、同国が進めてきた宗教政策への自信と、物心両面で世界のイスラム運動を応援しようとする姿勢が満ちていたという。エルドアン大統領自ら、トルコでのイスラム信仰と社会・政治の在り方を讃えた。会議の傍らでは、参加各国の状況に応じた支援策が協議されていた。

 現代トルコの宗教と政治の関係を考えるとき、エルドアン氏の半生は実に運命的だ。国政に出る前、イスタンブール市長を務めていた当時、イスラムを讃える詩文を発表し、公人として遵守(じゅんしゅ)すべき政教分離の原則を逸脱した、として逮捕・拘留され、市長の座を追われた。トルコ語で「ライキリク(世俗主義)」は、近代トルコの重要な原則で、軍部と司法機関は、この原則から逸脱したとして多くの政治家や学者・言論人を断罪してきた。

 こうした苦節を経たエルドアン氏は、党首・首相としてイスラム的価値観や理念を鼓吹することに非常に慎重だった。この間、軍部や司法との激しい闘いを経て、前述のようなイスラム促進の会議をトルコ政府が開催するまでになった。正に隔世の感があるだろう。

(世界日報元トルコ特派員・山崎喜博)