中国核戦力近代化、米の拡大抑止の信頼高めよ
2016 世界はどう動く-識者に聞く(5)
新米国安全保障センター上級研究員
エルブリッジ・コルビー氏(下)
中国は通常戦力だけでなく核戦力も増強している。
中国は核戦力の規模の拡大については抑制的だが、近代化にはかなり力を入れている。中国の核戦力はかつて、脆弱(ぜいじゃく)かつ粗雑で最終手段としてしか使用できなかったが、柔軟性が向上した新世代の核戦力は、中国に核使用のオプションを増やすことになるだろう。
私が考える中国の総合戦略はこうだ。中国はまず西太平洋地域で通常戦力の支配的地位を確立する。中国はこれを平時、または有事に影響力、威圧として利用する。米国や日本などが通常戦力で中国の優位に効果的に対応できない場合、米国や日本はこれを補うために核戦力への依存を高めることになる。これに対し、中国は核戦力を近代化、多様化させることで、米国とその同盟国が核に頼るのを阻むことができる、そう考えているのだろう。
中国にこの戦略を実現させないためには、われわれが通常戦力で優位を維持することが極めて重要だ。
中国は核弾頭を何発保有しているか。専門家の間で推計が大きく異なる。
私は一般的なコンセンサスである300~400発程度が正しいと考えている。だが、不確実な要素があり、完全に確信しているわけではない。
元ロシア軍幹部は中国の核弾頭数を1600~1800発と推計している。もしこれが事実なら、大変なことになるのでは。
極めて深刻だ。中国が本当に核戦力をそのレベルまで増強していたなら、われわれはすべての防衛体制を見直さなければならない。軍事的、戦略的な脅威であるだけでなく、中国による最大の欺きであり、信用できない国であることを意味するからだ。中国は長年、報復能力を超えた核戦力は求めない、米露と核軍拡競争をするつもりはない、と言い続けてきた。もし中国がそれを実行していたなら、われわれの対中認識は根本的に変わることになる。
日本の一部には日本も核を保有すべきとの意見がある。
現時点では日本は核保有を目指すべきでない。検討することさえ反対だ。だが、中国が通常戦力で優位を確立し、米国の核エスカレーションを困難にする核戦力を保有する戦略を達成した時、日本は米国の拡大抑止が十分なのかという疑問に直面するだろう。日本は被爆国で強い平和主義の傾向があるが、戦略的視点から米国の拡大抑止以上のものを手に入れる必要があると判断する可能性もある。
従って、アジアの将来を左右する真の意思決定者は中国なのだ。核拡散が進んで不安定化するアジアは、中国にとって好ましい将来ではない。だが、中国は今後も10%以上の伸び率で国防予算を増やし続けるつもりなのか。中国は慎重になるべきだ。
拡大抑止の信頼性をどう高めたらいいか。
多くのステップがあり、通常戦力レベルでは、日本は陸上自衛隊より海上、航空自衛隊の増強に力を入れるべきだ。核レベルでは、米国と拡大抑止についての協議を深めることだ。日本側からのインプットが増えることは良いことだ。
もし状況が悪化するなら、北大西洋条約機構(NATO)のモデルを検討してもいい。NATOでは核を保有していない国々を核関連の作戦に参加させている。核を保有するのは米国だが、戦時には米国以外の国が航空機で核を運搬したり、核の運搬で重要になる防空や電子攻撃を担ったりする。真の軍事統合だ。
この仕組みは冷戦時代、欧州諸国に核保有の必要がないことを説得するために生み出された。(核保有という)革命的影響をもたらす極端な結論を下す前にできることはたくさんある。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)






