北の「水爆」実験、体制存続への重要度を示す

2016 世界はどう動く-識者に聞く(6)

米ジョージタウン大学安全保障研究センター副所長
デービッド・マックスウェル氏(上)

北朝鮮は新年早々、水爆実験に成功したと発表した。この時期に行った意図は。

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 デービッド・マックスウェル 米オハイオ州立マイアミ大卒。米国防大で修士号を取得。陸軍士官として韓国、日本(沖縄)、フィリピンなどアジア諸国で約25年間勤務。国防大で安全保障問題の教官を務めた後、特殊部隊大佐で退役。

 北朝鮮の意図として①核開発計画を進展させる②政治的正当性のために国内のエリート層と人民の両方に力を示す③韓国に圧力をかける④政治的、経済的な譲歩を得る―ことが考えられる。

 おそらく、今回の実験は北朝鮮にとって政治的、経済的な利益がないだろう。従って、実験は北朝鮮の体制存続にとっていかに重要であるかを示している。

 北朝鮮が水爆の能力を得たかどうかについて、核専門家の信頼できる分析はない。ただ、今回の実験で明らかになったことが二つある。

 まず、この実験は北朝鮮が核開発を放棄する意思がないことを明確に証明した。交渉や6カ国協議再開の要求であると考えない方がいい。二つ目は、北朝鮮の核計画と人道に対する犯罪を終わらせる唯一の方法が統一だということだ。

北朝鮮は核の小型化に成功しているのか。

 それは分からない。小型化の兆候は見られない。しかし、彼らは少なくとも取り組んでいると考えられる。核の小型化を知りたければ、成功した他の国を見る必要がある。例えば、パキスタンと北朝鮮にはミサイルに関する協力がある。A・Q・カーン博士は核技術を拡散した。北朝鮮がいま小型化に成功していなくても、彼らはすぐに能力を持つと考える必要がある。

北朝鮮の非核化に対するオバマ政権の取り組みをどう評価するか。

 北朝鮮の非核化は行き詰まりを見せている。中国も北朝鮮の核開発を止める力を持っていない。

北朝鮮の金正恩第1書記は権力基盤を確立していると考えるか。

 北朝鮮の権力基盤を知るのは困難なため、金正日総書記の経験と比べる必要がある。正日氏は1973年に後継指名され、政敵を粛清することで基盤を強固にし、(94年の)父の死後、すぐに権力を継承することができた。

 一方、正恩氏はそのような期間がなかった。彼は後継指名されてから、権力を握るまで2年しかなかった。ただ、北朝鮮の体制は金一族が支配できるように構築されていることを忘れてはならない。脅威から正恩氏を守るようにも作られている。だから、後継指名から期間が短くても正恩氏が支配を続けるための権力基盤は十分に確立できていると考えられる。

中国と北朝鮮の関係は悪化しているが、今後、両国関係はどうなるか。

 中国は北朝鮮を問題視していて、変わることを望んでいる。特に、中国式市場経済の考えに沿った改革を求めている。しかし、北朝鮮が改革の兆候を示したことはない。中国が求める非核化にも応じていない。中朝関係で大きな改善は見られないだろう。

韓国は終末高高度防衛(THAAD)ミサイルの配備に消極的だが、今の能力で防衛は十分か。

 国家は市民と軍隊を守る責任があるが、今の韓国は北朝鮮のミサイル攻撃から国民を守る能力が不足している。

 THAADの配備はミサイル脅威に対する広範囲の防衛に有効で、韓国は日米と共に統合ミサイル防衛システムの一部である必要がある。

(聞き手=ワシントン・岩城喜之)