名機「US-2」描く漫画
平成25年6月、太平洋をヨットで横断中に遭難したニュースキャスターの辛坊治郎さんらを救助した海上自衛隊の救難飛行艇「US-2」。「空飛ぶ船」の異名もある水陸両用のわが国の技術を結集させた航空機だ。
新明和工業(兵庫県宝塚市)が開発・製造するUS-2は世界一の能力で知られている。特に優れているのが波高3メートルという大荒れの海にも離着水できる能力だ。優れた性能にインドが関心を示し、わが国の防衛装備品の輸出第1号としても期待されている。
このUS-2の開発を描いた漫画「US-2救難飛行艇開発物語」の単行本第1集がこのほど発売され、人気だ。漫画は昨年から小学館の「ビッグコミック増刊号」で連載され、単行本は1話から5話が収録されている。
作品は事実に基づくフィクション。防衛省や自衛隊、企業の関係者100人以上に取材し、開発の舞台裏が事細かに描かれている。「超理系コミック」と称するだけあって、専門用語も多いが、解説がしっかりしているため実に読みやすい。文系の人でも困ることはないと思う。
また、各話には当事者たちによるコラムも書かれている。例えば、在日米軍司令官を務めたドーラン氏はUS-2の前身、US―1Aに救助されたことがあるのだが、この救助の記録も当時のクルーによって描かれている。手に汗握る展開で、困難な任務に従事した隊員に敬意を表したくなる。
私の知る限り、防衛装備品の開発にスポットを当てた漫画を見たことがない。担当編集者によれば、「日本の優れた技術を紹介したいと思っていたところ、世界一の性能を持つUS-2に出会った」という。
ちなみに、飛行艇を製造している国は、日本以外はロシアとカナダだけだったが、中国も昨年末、飛行艇「AG600」の初飛行に成功した。ライバルの登場か。
US-2のすごさを知る上で、「US-2救難飛行艇開発物語」はうってつけの作品だ。興味のある方はご一読を。
(濱口和久)