憲法に「家族尊重条項」を

秋山 昭八弁護士 秋山 昭八

家庭は国家の基本単位
子供の情動を育て文化伝承

 超少子高齢化社会を迎えたわが国では、3世代家族から核家族へ、そして今や単独世帯の数が核家族を上回るという急激な世帯構造の変化が起きている。

 また少子化によって現役世代が急激に減少し、国としての活力が低下し、世代間扶養の原則によって成り立つ年金制度はまさに破綻の際にある。

 わが国が早急に取り組むべき課題は、家族を再生し、「家庭」を単位とする国づくりである。

 日本の高度経済成長を支えてきた家庭の基盤は、核家族化と少子化の進行により急速に失われ、「家庭」単位から「個人」単位への政策転換、特に男女共同参画をはじめ家庭破壊思想を根本に持つ「家族弱体化」政策によって、子育てや介護にさまざまな軋轢(あつれき)を引き起こしているという実態を直視しなければならない。

 家族と地域が強固な絆でつながれた美しい日本再生に向けて、家庭強化による人づくり、家庭基盤を強化する子育て支援と家族政策の在り方について真剣に検討すべきである。

 東日本大震災で1万8000余名が犠牲となったが、その生命の原点こそ結婚であり、国家を存立の危機から救出できるのは、国民が「家庭と結婚の価値」に気付くことである。

 日本国憲法には、世界人権宣言や国際人権規約にうたわれている「家族尊重条項」が存在しない。憲法改正へ向けた議論が盛んになされている時こそ、憲法に家族尊重条項を設けるべきである。

 家庭は新しい生命の誕生と育成の厳粛な場である。だからこそ、わが民法は家庭と結婚について保護する規定を明記している。①婚姻の届出②重婚の禁止③同居、協力及び扶助の義務④夫婦同氏制度⑤嫡出の推定⑥法定相続分⑦再婚禁止期間―などである。

 第3次男女共同参画基本計画(2010年12月閣議決定)に明記されている選択的夫婦別氏制度などのための民法改正の検討は、民法の家庭・結婚に関する保護の規定を廃止し、わが国の家庭を根底から破壊させようとする政策以外の何ものでもない。

 国は家庭強化のための施策を早急に実施すべきである。「家庭は、社会の自然かつ基本的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する」と記した世界人権宣言第16条第3項に基づき、家庭と結婚の価値を基本理念とする基本法の制定並びに必要な法整備を進めるべきである。

 公教育の中で家庭の価値を明確化し、人格教育を推進すべきである。家庭の価値は人類に普遍的なものである。このような教育政策を進めることで家族の絆を大切にする日本人の意識を理念的、実際的に支持し、日本の家庭基盤をより永続的で強固なものにすることができる。

 教育の目的は「人格の完成」である。このことは教育基本法においても明確に掲げられている。人格教育の立場から、個人の人格の陶冶(とうや)の目的は、まず、家庭において結実すべきである。

 子育ての第一義的責任は、社会ではなく父母にあるのは言うまでもない。しかし、過去20年にわたる政府の家族政策を見てみると、本来家庭で担うべき子育てや介護などの役割を外部の機関が担うという、「子育ての社会化」「育児の外注化」政策が推し進められてきた。

 今わが国が喫緊に取り組むべき課題は、家族が本来持っている機能を再生し、「家庭」を単位とする国づくりである。

 家族の生活の場である家庭は本来、家族構成員の生活的な保障をする機能と、愛情や精神的な安らぎを充足させる機能を持つ。文部科学省の情動に関する検討会は2005年の報告書で、子供の情動を育てる上で母親をはじめ家族からの愛情を受けることが望ましいと指摘している。子供にとっては親に心から愛されていることを実感することが成長の第一歩なのである。家庭はまた、子供たちに文化、価値観を伝承する場である。こうした家庭の役割を抜きに社会は成立し得ない。言うまでもなく、家庭はまさに国家と社会の基本的な構成単位なのである。

 少子高齢化の急速な進行は、かつて他の先進国が経験したことのないレベルで進んでいる。高齢化率が7%から14%に達するまでの所要年数(倍化年数)を比較すると、フランス115年、スウェーデン85年、ドイツ40年、イギリス47年に対して、わが国はわずか24年で14%に達した。

 児童虐待や高齢者虐待の急増は、本来愛情で結ばれているはずの家族関係が大きく揺らいでいることを示し、さらに子供たちの暴力行為や性の低年齢化など、家庭が子供たちの規範を育てる力を失いつつあることを示している。

(あきやま・しょうはち)