【社説】対中人権決議 曖昧な表現では意味がない


国会議事堂

 衆院が中国の人権侵害に懸念を示す決議を、れいわ新選組を除く与野党の賛成多数で採決した。参院も決議採択を目指す。

 人権問題に懸念を示す衆院決議は異例だという。北京冬季五輪開幕を前に、与党と主要な野党が足並みをそろえて人権を重視する姿勢を示す狙いだが、名指しでの中国批判は避けた。欧米諸国が中国の人権問題を理由に当局者らに制裁を科しているのと比べ、いかに日本の腰が引けているか感じざるを得ない。

 「非難」の2文字を削除

 決議は、新疆ウイグル自治区やチベット、「南モンゴル」(内モンゴル自治区)、香港などでの「信教の自由への侵害や、強制収監をはじめとする深刻な人権状況への懸念が示されている」と明記。「国際社会と連携して深刻な人権状況を監視し、救済するための包括的な施策を実施すべきである」として、中国を念頭に「国際社会への説明責任を果たすよう強く求める」と注文をつけた。

 しかし自民党が公明党など他党の理解を得るため、当初の決議案にあった「人権侵害」を「人権状況」に書き換え、「非難決議」から「非難」の2文字が削除された。中国という国名も明記しなかった。

 これでは、決議を採択した意味がない。欧米各国ではウイグルでの人権抑圧を「ジェノサイド(集団虐殺)」と認定する動きが広がっているのに対し、あまりにも弱腰だ。日本維新の会と国民民主党は決議に賛成したものの、不満を示す文書をそれぞれ発表した。

 決議は昨年、複数の超党派国会議員連盟が各党に採択を働き掛けたが、自民、公明両党が難色を示し、2度にわたって見送られた経緯がある。政府・与党内には経済面の悪影響などを考慮した慎重論もあり、今回も厳しい表現を避ける方向となったという。

 だが、経済上の理由で中国の人権問題への非難を抑制することは容認できない。欧米では人権侵害のリスクを調べる「人権デューデリジェンス(人権DD)」の実施を企業に義務付ける法整備が進む。経済面でも人権に配慮することが世界的潮流となりつつある。

 自民党内にも親中派の議員がいるが、忘れてならないのは現在の中国が共産党の一党独裁体制下にあることだ。唯物論に基づく共産主義国家は、国民の人権を蹂躙(じゅうりん)し、他国の領土を侵害するようになる。それは旧ソ連も、現在の中国も同じだ。

 中国共産党政権と「日中友好」を実現することはできない。日本は民主主義陣営の一員として、米国などと共に対中包囲網の構築に尽力すべきだ。

 中国に甘くみられるな

 その意味で、今回の決議が曖昧な表現となったことは残念である。北京五輪をめぐって、日本は米国や英国などと歩調を合わせ、中国の人権問題を理由に政府関係者の派遣を見送ることを決めたが、米英などと違って「外交ボイコット」とは表現していない。

 人権問題に対して煮え切らない態度を取り続ければ、中国におもねる日本として中国に甘くみられるだけだ。対中批判を強める必要がある。