【社説】来年度予算案 経済再生し成長基盤整えよ
政府は2022年度予算案を閣議決定した。一般会計総額は21年度当初予算比0・9%増の107兆5964億円で、10年連続で過去最大を更新した。
長引く新型コロナウイルス禍によって傷んだ経済の再生と岸田文雄首相が掲げる「成長と分配の好循環」の実現に向け成長基盤を整えるのが、大きな目的である。効果的でめりはりの利いた政策の実施を望みたい。
「好循環」の実現目指す
予算案は、コロナ対策への重点配分や、高齢化などに伴う社会保障費、中国や北朝鮮などの脅威増大に対処するための防衛費などで歳出が増加するのはやむを得ないものの、全体の特徴として岸田色を色濃く打ち出したものになっている。
「成長と分配の好循環」の実現に向け、看護、介護、保育分野の賃上げなどの施策を盛り込んだ。また、分配の原資を生み出す成長戦略として「科学技術立国」「デジタル田園都市国家構想」「経済安全保障」の3分野に重点投資する。
基本的な考え方、方向性は間違っておらず、評価できる。こうした政策が打ち出せるのも、コロナ感染の第5波をワクチン接種の積極的な推進などによってほぼ収束できたからであり、この機会を逃してはなるまい。スピード感が求められる所以(ゆえん)である。
感染力が強い「オミクロン株」の市中感染が大都市で相次いで報告され警戒は怠れないが、これまでの経験や知見を生かし、個人も事業者も基本的な感染対策を励行することで第6波は未然に防ぎたい。
注目したいのは、成長重視の安倍政権の経済政策「アベノミクス」でも十分な成果を出せなかった成長戦略である。予算案は成長戦略の要としてイノベーション創出をうたい、「科学技術立国」の観点から政府全体の科学技術振興費が過去最高の1兆3788億円になった。必要な人材の育成・確保のほか、量子技術や人工知能(AI)、次世代半導体など重要分野の研究開発も促進する。
また成長戦略の柱である社会のデジタル化加速に向け、光ファイバーや通信の高速大容量規格「5G」の基地局などの整備の後押し、地方のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進などインフラ整備を強化する。
政府は22年度経済見通しで実質経済成長率を、21年度補正予算を裏付けとする経済対策の押し上げ効果を見込んで3・2%とし、実質GDP(国内総生産)規模が556兆円と過去最高に達すると想定。通常に近い社会経済活動を取り戻すという。
ただ「未来志向の投資促進策を実行し、経済を民需主導の持続的な成長軌道に乗せていく」(岸田首相)には、成長戦略が奏功して成長基盤が整うことが欠かせない。
複数年度の基金拡充を
成長戦略については、海外主要国に比べ投資額が少なく力不足との指摘が少なくない。科学技術振興など未来志向の投資促進策には、複数年度にわたり予算を使える大規模基金などがより必要だ。無駄遣いをチェックする仕組みを工夫しながら、成長基盤を着実に整えたい。