【社説】首相所信表明 建設的で質の高い論戦を


衆院本会議で所信表明演説に臨む岸田文雄首相=6日午後、国会内

 岸田文雄首相は第207臨時国会で、就任以来2回目となる所信表明演説を行った。新型コロナウイルス禍という国難の中、「丁寧で寛容な政治を進め、大いなる挑戦の先頭に立つ」との覚悟を示した。今後、与野党の代表質問や予算委員会に臨むが、建設的で質の高い論戦を期待したい。

 危うい「国益守る外交」

 岸田首相が冒頭、印象付けたかったのは、新型コロナの変異種「オミクロン株」への先手の対応だろう。政治手法として「よく聞くこと」と「慎重さ」をアピールしてきたが、「リスクに対応するため、外国人の入国は全世界を対象に停止すると決断した」と即断実行を強調した。

 ワクチン接種についても、2回目完了から「原則8カ月後」としてきた3回目接種を「オミクロン株への効果などを見極めながらできるだけ前倒しする」と慎重だった姿勢を転換。飲める治療薬は「年内の薬事承認を目指す」と語るなどスピーディーな姿勢をアピールした。

 一方、首相が掲げる「新しい資本主義」の「前提」として位置付ける外交・安全保障分野では、あいまいさが目立った。「日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化」や東南アジア諸国連合(ASEAN)、欧州などの「同志国」と連携し、日米豪印(戦略対話)も活用しながら「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力を深めていくという方向性は良い。覇権主義の中国包囲網形成が今ほど急がれている時はないからだ。

 しかし、その中国に対して「主張すべきは主張」するとしながら「共通の課題には協力し、建設的かつ安定的な関係の構築を目指す」という。米国は来年2月の北京五輪に政府高官らを派遣しない「外交ボイコット」を近く発表する見通しだが、日本はどうするのか。安倍・菅外交との違いを意識するあまり対中姿勢を軟化させようとするのであれば「国益を守る外交」は危ういと言わざるを得ない。

 首相が看板政策に掲げる経済安全保障については「成長」と「外交・安保」の項目で語られたが、後者の中でもっと詳しく触れてほしかった。自民党の高市早苗政調会長は、最も重要な経済安保策として「先端技術、機微技術、戦略物資の流出を阻止するための政策構築」を強調し、その第1に取り組むべきテーマに産業スパイ対策に資する法制度整備、すなわちスパイ防止法の制定を挙げている。

 「防衛力の抜本的強化」としても意義があろう。首相は来年の通常国会に経済安保法案の提出を目指すと強調したが、この内容の議論も今国会で深めるべきである。

 憲法の在り方について首相は「国会議員には真剣に向き合っていく責務がある」と強調し、与野党の枠を超えて積極的な議論を行うよう求めた。国民民主党や日本維新の会からは憲法審査会を毎週開けばいいといった声も出ている。

 国民の改憲議論喚起を

 立憲民主党の泉健太代表も「議論することがあれば、誠実に協議していきたい」と述べている。国会で活発な論戦を展開し、国民の憲法改正議論を喚起していくことも肝要である。