党首討論 国家観の議論なく迫力不足
菅義偉首相(自民党総裁)と野党党首による党首討論が開催された。2年ぶりの直接対決であり、菅首相にとっては初めての参加だった。
国家観を戦わせる場が必要だとの理由から、衆参両院の国家基本政策委員会の合同審査会として2000年に始まったが、政府の新型コロナウイルス対策や東京五輪・パラリンピックへの対応などにテーマが集中し、迫力不足で議論を深めることはできなかった。
私権制限で首相が質問
党首討論の展開次第で内閣不信任案の提出もあり得るというのが野党第1党・立憲民主党の基本姿勢だったことから、国会最終盤の大きなヤマ場として白熱した議論が期待された。
枝野幸男同党代表は新型コロナ対策に関し、緊急事態宣言の解除基準の厳格化を柱とする「ゼロコロナ」戦略への転換を要求した。これに対し、首相は「ワクチン接種こそが切り札だ」と反論。「10月から11月にかけ、希望する国民の全て(の接種)を終えることも実現したい」と強調した。
党首討論は通常の国会審議と異なり、首相にも野党党首への質問が認められる。首相は枝野代表に「(立憲は)特別措置法の私権制限強化に非常に慎重だった。国民にどうやって強制的な検査を受けてもらうのか。ぜひ伺ってみたいと思っていた」と質問。枝野代表は「私権制限に否定的ではない。補償とセットでなければならないと言い続けている」と切り返した。
残念だったのは、首相がこのタイミングで私権制限と憲法への緊急事態条項の盛り込みに関する議論につなげて深めるべきだったのにしなかった点だ。
欧米ではロックダウン(都市封鎖)など厳しい私権制限を伴う措置が取られた。しかし日本の場合、特措法に基づく緊急事態宣言下の不要不急の外出自粛要請は、あくまで「お願いベース」で強制力はない。
枝野代表は、強力な司令塔がいないことが問題だなどと語った。だが、それだけが原因ではなかろう。
今回の党首討論は、参院憲法審査会で憲法改正手続きを定める国民投票法改正案が自民、立憲など与野党の賛成多数で可決された直後に開かれた。
同改正案は11日の本会議で成立する予定で、国会はいよいよ実質的な改憲論議に入ることになる。緊急事態条項の盛り込みについての議論を深めるよう党総裁の立場から要求できたはずである。
用意した紙を読む姿が目立ったが、もっと自分の言葉で堂々と改憲への信念を語ってほしかった。
「G7」を取り上げず
討論時間が短かったため、議論の幅を広げるのに限界があったのはやむを得まい。ただ、首相はきょう、英国で開催される先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)に出席するため日本を出発する。
沖縄県・尖閣諸島沖の領海侵犯など覇権主義的な行動を続ける中国への対応や新型コロナワクチン問題などをテーマに話し合う予定だが、そこで日本が何を主張すべきかについても取り上げてほしかった。