コロナ起源「隠蔽」の可能性 ファウチ氏、初期に認識か

 最近まで新型コロナウイルスの武漢研究所流出説を一貫して否定してきたファウチ米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長が、感染拡大初期の昨年2月にその可能性を懸念していたことを示唆するメールが1日に公開され、注目を集めている。米紙ワシントン・ポストなどが情報公開法を利用して入手したもので、共和党議員はファウチ氏が流出の可能性を認識しながらも、それを公言してこなかったとして追及する構えだ。(ワシントン・山崎洋介)

公開メールで深まる疑惑

 「午前のうちに話し合うことが不可欠だ」「きょうのうちにやるべき仕事がある」

3月、連邦議会で証言する米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長(UPI)

3月、連邦議会で証言する米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長(UPI)

 ファウチ氏は昨年2月1日、部下のヒュー・オーキンクロスNIAID副所長に切迫感を滲(にじ)ませたメールを送った。件名には「重要」と付けられ、本文の中で、添付ファイルの論文を読むよう指示した。

 この添付ファイルのタイトルは「バリック、シー、その他―ネイチャー・メディシン―SARSの機能獲得.pdf」となっている。この「バリック」 は、米ノースカロライナ大の著名なウイルス学者であるラフル・バリック氏、「シー」は中国・武漢ウイルス研究所(WIV)の研究者、石正麗氏をそれぞれ指すとみられ、ファイルの中身は両氏らが米医学誌ネイチャー・メディシンに掲載した「機能獲得研究」に関する研究論文であることが想像される。

 機能獲得研究は、人為的にウイルスの感染性や病原性を高めることで、将来のパンデミック(世界的大流行)の予測に役立てることを目的とするが、実験で作られた危険性の高いウイルスが漏洩(ろうえい)するリスクも指摘され、物議を醸していた。

 WIVには、米国立衛生研究所(NIH)から2014年からの6年間で約60万㌦の資金提供がなされている。そこでは石氏らがウイルスの遺伝子を操作して感染力を高める実験を行っており、米政府が資金提供した研究が新型コロナ流出につながった可能性も疑われている。

 これまで政府内で機能獲得研究を支持し、WIVへの資金提供にも深く関わったとみられるのが、NIH傘下のNIAID所長を務めるファウチ氏だ。WIVの機能獲得研究には資金提供していないと主張してきたファウチ氏だが、感染拡大初期にこの資金提供について懸念していたことがメールからうかがえる。

 オーキンクロス氏はファウチ氏から受け取ったメールに返信し、「エミリー」という人物が「われわれが海外で行われたこの研究と何らかのつながりがあるかどうかを判断しようとしている」と報告した。

 断片的な情報ではあるものの、ファウチ氏らが「海外で行われたこの研究」、つまりWIVで行われた機能獲得研究が新型コロナ流出につながった可能性を懸念し、それとNIAIDの関係について確認しようとしていたと解釈できる。

 ファウチ氏のメールは、昨年1~6月までの3200通以上が公開された。別のメールでは、ファウチ氏は昨年1月31日、カリフォルニア州スクリップス研究所に所属するウイルス研究の第一人者、クリスチャン・アンダーソン氏から、新型コロナには「異常な特徴」があるとの指摘を受けた。その中でアンダーソン氏は「幾つかの特徴が (潜在的に) 操作されたように見える」として、より詳細な分析を行うとした。

 ところが、その約1カ月半後の昨年3月に発表した論文では、一転して、新型コロナは「研究室で構築されても、意図的に操作されてもいない」と断定した。ただこれに対しては、「操作されたように見えるとの印象をどのように克服したか論文で適切に説明されていない」(科学ジャーナリストのニコラス・ウエイド氏)などと、短期間で真逆の結論に至った経緯が不透明との指摘も出ている。

 いずれにしても、このメールによって、ファウチ氏がWIVからのウイルスの流出の可能性を認識し、自身の責任問題に発展することを恐れたファウチ氏が、その翌日、部下に詳細の確認を急いだと受け取ることができる。

 これに対し、共和党は追及する構えを見せており、スティーブ・スカリス下院議員は、ツイッターで「メールは、昨年の早い段階で武漢研究所からの新型コロナ流出を疑っていたことを示しているが、ファウチ氏は沈黙を保っていた」と批判。「これは大掛かりな隠蔽(いんぺい)だ」として、徹底した議会調査が必要だと訴えた。