3年で覆った“強制徴用”訴訟判決
「請求権協定により訴え制限」
日帝強制占領期の徴用被害者ら約80人が日本企業16社を訴えた損害賠償請求訴訟がソウル中央地裁によって却下された。2018年10月の大法院(最高裁に相当)全員合議体(大法廷)が下した判決と正反対の結論で、論議が予想される。同訴訟は日帝徴用被害者が起こしたさまざまな訴訟の中で最も規模が大きい。
地裁は韓日請求権協定により徴用被害者が日本を相手に訴えを起こすことはできないと判断したが、これは3年前の大法院判決に真っ向から対立する。当時、大法院は「請求権協定によって国民の賠償請求権自体が消滅したと見ることはできない」と判断していた。
今回、大法院判決と正反対の判断が下級審から出たことで、今後の徴用損害賠償訴訟でも大混乱が発生するものと見られる。現在、ソウル中央地裁では18件の同様の訴訟が進行中だ。
判決は、「植民支配の不法性を認める国内法的事情だけで韓日請求権協定の“不履行”を正当化することはできない」とし、「大韓民国は依然として国際法的には請求権協定に拘束される」と判示。「同件の請求を容認すれば、ウィーン条約27条と禁反言の法理(以前の言動と矛盾する行為はできない)など国際法に違反する結果になる」と憂慮を示した。
大法院判決の時の少数意見が今回の判断と同じだった。当時の権純一、趙載淵最高裁判事は、「請求権協定により被害者らの賠償請求権が制限されるものと見るべきだ」とし、「(日本企業でなく)大韓民国が被害者に対して正当に補償しなければならない」という意見を示した。
地裁はさらに「いまだに分断国の現実と世界の4強大国の間に位置する地政学的状況に置かれた大韓民国としては、自由民主主義という憲法的価値を共有する西側勢力の代表国家の一つである日本国との関係が毀損される」とも指摘した。
法曹界では大法院判決が下されて3年もせずに、下級審で判決が覆ったのは異例だとの反応が出ている。今回の判決が最終確定するかは確言できない。原告が直ちに控訴することにしたが、控訴審が1審判決を維持するのかも不明だ。
弁護士らの市民団体は共同論評を出し、「裁判所は露骨に判決が引き起こす政治・社会的効果のためだという点を告白したが、これは司法府が判断根拠とする領域でない」と批判した。
今回の判決で、これまでの韓国政府の対応論理が揺れるという憂慮もある。「司法府の判断を尊重する」という趣旨で消極的に臨んできた政府としては、さらに難しい状況だとの指摘も出ている。
陳昌洙(チンチャンス)世宗研究所日本研究センター長は、「判決と関係なく、日本は今までと同じく韓国に強硬姿勢で一貫するだろう」とし、「18年判決による日本企業資産の現金化を防ぐ方法をさらに強力に要求できるようになった」と分析した。
(イ・ヒジン、ホン・ジュヒョン、キム・ソニョン記者、6月8日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。
ポイント解説
ようやく原点に戻った司法判断
実は盧武鉉(ノムヒョン)政権の民官合同委員会でも同じ結論が出されていた。「補償は韓国政府がすべき」という「少数意見」にようやく目が向けられたわけだ。韓国動乱真っ最中の1951年から始まり、65年の締結まで、14年にわたった日韓国交正常化交渉で、朴正熙(パクチョンヒ)政権が「個人への補償は韓国政府が行う」として一括処理を求め、日本側の個別補償提起を断っていた経緯がある。共産主義と対峙(たいじ)し、国家建設を最優先していた朴政権としては当然の判断だ。
日本からの資金と協力を基に京釜高速道路、浦項製鉄所(現ポスコ)などを建設し、その後の目覚ましい経済発展「漢江の奇跡」を成し遂げ、今日の繁栄の基礎を築いたことは韓国政府がまとめた請求権協定報告書にも明記された。国の安全と「経済的に豊かになる」という最大福祉を優先するという選択肢は間違いではなかった。
その一方で韓国政府は個人への補償を既に複数回行っている。なのに国際法を曲げてまで日本に「賠償」を求めるのは、「日韓併合は不法だった」という歴史の書き換え作業の一環だったからだ。しかし過去に遡って現代の法で裁くことはできない。
最高裁判決を地裁が覆したのだから、今後大きな議論となるだろう。「司法判断尊重」を盾にしてきた文在寅政権としては相反する「判断」のどちらを取るか、苦しい対応を迫られた。
G7サミット日程を意識した前倒しの判決は韓国政府のサインだろうが、日本が態度を軟化させることはないと韓国では見ている。「ゴールポスト」が動かされてきた日本は学んだことが多い。だが、日本側も何らかのサインを出す時期に来ている。世界に頑なだと思われても不利だ。立ち話ぐらいはあるのかもしれない。
(岩崎 哲)