首都圏に近く、豊かな自然 長野市
長野市長 加藤久雄氏
善光寺などの観光地として知られる町、長野県長野市。日本アルプスの見える自然豊かな地域でもあるが、全国の地方自治体と同じく人口減少・高齢社会の悩みを抱えている。ここで観光振興や少子高齢化対策に取り組む加藤久雄市長(76)に話を聞いた。(社会部・石井孝秀)
魅力発信 移住者に期待
結婚応援「夢先案内人」を養成
中部地方では昇龍道プロジェクト(中部・北陸地方を通る観光ルート)が海外から注目を集めています。

かとう・ひさお 1942年、長野市生まれ。早稲田大学卒。2009年に(株)本久ホールディングス代表取締役会長兼社長、しなの鉄道(株)取締役会長に就任。13年の長野市長選で初当選。17年に再選を果たし、現在は2期目。
現在のインバウンド(外国人観光客)の傾向として、東京、大阪、京都などのいわゆるゴールデンルートから、どんどん地方へと関心が移り変わっている。日本列島の中央で日本海と太平洋を結ぶ昇龍道のルートには、長野市の善光寺や戸隠流忍法資料館などの観光スポットがある。また、松本城のある松本市から長野市に来てもらうようなルートも期待できるので、昇龍道とはこれからもっと連携を強めていきたい。
市内に良いものはたくさんあるが、長野市だけの魅力というのは一つの「点」にすぎない。これからは周辺地域それぞれの魅力を組み合わせ、点と点を結び付けた一つの道をつくり上げるべきだ。
今後は長野市を観光の通過点でなく滞在場所としてもらえるよう工夫している。滞在日数を増やすため、イベントで善光寺をイルミネーションで演出するなど、夜も楽しめるような取り組みをいろいろ考えている。長野はオリンピック施設が多いので、イベント会場にすれば大勢を一気に集められる。そういうところも生かしながらやっていく。
市内のインバウンドの状況は。
台湾、香港、中国、タイなどが多いが、ヨーロッパやオーストラリアなどからも観光客は来ている。県で観光営業を行っていることもあり、特に台湾の人が多い。
さらに東京五輪を一つのチャンスとして、受動喫煙禁止のための取り組みをしている。これはインバウンド受け入れ策の一つでもある。今までは喫煙しながら飲食というのは常識だったが、これからは非常識だ。
以前、ホテルのオーナーや役員を呼び集め、「責任は市が持つので、客から灰皿を頼まれた際は『市から(禁煙を)強く要請されています』と言ってもらいたい」と伝えたら、一気に定着した。客も市の要請と言うと納得してくれるようで、市内のホテルでは禁煙や分煙が完全に浸透した。これは大きな成果だと感じている。
今後はインバウンドの人に長野の良さをより知ってもらうことが大事だ。市内に3900人くらいの外国人が住んでいるので、SNSやインスタグラムなどで長野を発信してもらうようお願いしている。
長野は国内の移住者に人気のある地域ですが、移住者に期待することは。
首都圏に近いのが人気の理由の一つ。雑多な都会と比べて自然豊かで、水も空気も野菜も果物もおいしい。
長野市では農業の次世代を担う人材の応援もしている。認定農業者の子弟が親元に就農する場合に助成金を出したり、農業研修センターを整備するなど、若手がUターン(自分の出身地に戻ること)をしやすくしている。Iターン(都会から移住すること)でやる気のある人がいれば、次の担い手として農地を紹介することもできる。
長野は出ていく人の方が多い。だからこそ長野に移住した人たちには、ここに来て感じた良いことをたくさん発信してほしい。ある過疎地域にやってきた人は「美しいアルプスの山並みを眺めることができ、住民もいい人たちばかりなのに、なぜ出ていく人がいるのか」と言っていた。我々にとって山は毎日の見慣れた風景にしか見えない。外から来た人の意見は地元の人とは視点が違い、とても貴重だ。
長野市で進めている少子高齢化問題への取り組みは。
結婚に関心を持てない人が増えているので、結婚の魅力や男女の接し方をセミナーなどで啓発している。また、結婚希望者に寄り添う市民ボランティア「夢先案内人」の養成もしており、市内だけで約600人が登録している。
また私は昨年、松本市長と共に高齢者の活躍推進のため、「75歳以上を『高齢者』と呼びましょう」と共同宣言を発表した。長野市の65歳以上の人口は今年4月1日現在で30%超だ。人生100年時代を見据え、今まで培ってきた経験・知識を世の中に役立てるようにするべきだろう。75歳からでも「まだこれから」という意識を持ってもらえるよう呼び掛け続けている。