始動した「気候変動適応法」
地域主体で被害に備え
気候変動対策の新たな枠組みとなる「気候変動適応法」が1日に施行された。「適応」は地域が主体となって、気温上昇や集中豪雨などの被害に備えるもの。さまざまな分野に影響を及ぼす気候変動に対して、国や地方自治体が一体となり適応策を推進する取り組みが始動した。
(政治部・岸元玲七、写真も)
高温耐性農作物の品種開発も
適応センター設立で情報提供
適応策は、熱中症予防対策や、高温耐性の農作物の品種開発、洪水・土砂対策など多岐にわたる。国が策定した「気候変動適応計画」では、農業や防災、健康など7分野において基本的な施策の方向性が示されている。また、気候変動の影響は地域によって異なるため、地方自治体ごとに「地域気候変動適応計画」の策定を法律で義務付けた。そして、地域の情報を集約し提供する拠点を大学や研究機関に確保し、地域に根差した適応を推進していく。
また、同法は国立環境研究所(茨城県つくば市)を「適応の情報基盤の中核」として位置付けている。法施行日に合わせ、研究所内に「気候変動適応センター」が設立された。従来の気候変動対策は、温室効果ガス排出削減などの「緩和」に重点が置かれていた。同センター研究調整主幹の豊村紳一郎氏は、緩和と適応が並行して行われるようになった背景について「身近に気候変動の影響を感じるようになり、緩和をしても、やはりある程度気温が上昇していくことを踏まえて行動を取るべきだということが分かってきた」と語った。
同センターでは、研究業務に加え、適応に関する情報を発信するポータルサイト「気候変動適応情報プラットフォーム(A―PLAT)」を運営。全国または都道府県レベルでの気象情報の将来予測データだけでなく、地域の先進的な適応策や成功事例のインタビューも掲載している。
また、適応に取り組む地方自治体への技術的助言や支援も行う。豊村氏は「地域が主体となる取り組みだが、人材不足や体制づくりなどで非常に大変だと思う」と指摘し、「地域で計画を立てる際に前提となるデータの使い方や解釈などの質問に答えたり、研修を通して人材育成にも努めたい」と語った。
埼玉県は、全国でもいち早く適応策に取り組んできた。同県は2009年、緩和策に加え適応策を行う温暖化対策実行計画を策定。12年には適応策専門部会を設置し、庁内の推進体制整備に取り組んだ。現在、同県では埼玉県環境科学国際センターと温暖化対策課が連携し、庁内の関係課とも情報共有できる体制ができている。
温暖化対策課主査の小林健太郎氏は、適応について「各課がすでに取り組んでいる施策の中に、適応という観点を取り込んでもらうものだ」と述べ、「法的根拠ができたことで、庁内職員にも説明しやすくなり、できることが大きくなった」と話した。
同県では、水稲の高温対策として高温耐性品種「彩のきずな」の開発や、熊谷スポーツ文化公園で遮熱舗装や並木整備によるヒートアイランド対策を実行している。小林氏は「地域が主役といっても、自治体には適応の専門家がいない。国や国立環境研究所がしっかりサポートしてほしい」と述べた。







