「自由民主」入管法改正 「深刻な人手不足」で押し切る
「野党勉強不足」と社民誌に
終幕した臨時国会は出入国管理法改正をめぐる与野党対決に明け暮れ、安倍晋三首相が掲げた憲法改正の議論は進まなかった。だが、外国人労働者に「特定技能1号」の在留期間上限を5年、より熟練した「特定技能2号」の在留期限は更新することができ、配偶者と子供の帯同も可能にするなど、より多くの外国人受け入れにつながる同法は短い会期であっさりと成立した。
自民党機関紙「自由民主」は1面で「深刻な人手不足解消を/入管法改正案が審議入り」(11・25)、「入管法改正案衆院可決」(12・11)、「改正入管法が成立/人手不足の解消を促進」(12・18)、「安倍総理記者会見/改正入管法の意義を強調」(12・25)など多く扱い、最重要法案らしく力が入っていた。
ただ、同紙各記事を見ても強調されるのは「深刻な人手不足の解消」であり、いわばこの一言で押し切っている。具体的な措置の検討はこれからで、年内に政府がまとめる基本方針の下に各分野運用方針などを来年3月までに決定するため、同法が成立しても概要の説明にとどまらざるを得ない内容(12・18)だ。
首相は臨時国会閉幕の記者会見で10日、「人手不足の中、優秀な外国人の皆さんにもっと活躍していただくために必要」(12・25)と強調したが、日本の歴史と伝統、文化を大切にする保守政党ながら、安倍政権らしい「国を愛し、守る」議論は乏しく、ひたすら経済だけを優先して大急ぎで法案を仕上げた姿勢には疑問が残る。
どれだけ日本社会と和合できるようにするのか、あるいは米国で官民あらゆる分野に入り込んだ中国人による情報活動が大問題になっているように、警戒を要する問題もある。
また、同法審議で今年の6月までの半年間で失踪した外国人実習生は4279人、2017年は7089人、原因は高い賃金を求めての失踪が67%―などの問題も明るみになった。
しかし、これらは今に始まったものではない。既にわが国で働く外国人は約128万人おり、そのうち実習生は約28万人。外国人労組も結成されている。改正入管法は、これから新たに受け入れるよりも、既に国内にいる外国人のために新たな在留資格を整備する必要に迫られた側面もある。
一方、社民党の機関誌「社会民主」12月号に首都大学東京教授・丹野清人氏は、「新たな在留資格『特定技能』をめぐる混乱と問題の所在」と題する記事で、「国会の論戦の中では野党議員から『法案の詳細が詰められていないから…』という声も聞かれるが、これは筆者からすると、勉強不足を自ら認めたようにしか聞こえない」と述べた。
丹野氏は、改正入管法の「特定技能」の在留資格は「技能実習生」の延長として考えるべきで、建設業、造船業の2業種で既に滞在期間が最大8年になった外国人建設就労者、外国人造船就労者などと重なりがあると指摘。「最初は小さく(特定の業種・職種であったり、エリアを限った国家戦略特区であったり)始まったものが、数年後に日本全国で一般的に行われるものに転換されることの繰り返しで、日本の外国人労働者の受け入れは行われてきた」経緯から、「在留資格『特定技能』をめぐる入管法改正も、何の見取り図もない中で進んでいるのではないことが分かる」と解説した。
同法に反対した社民党など野党を支援する労組側は、外国人労働者増加が賃金の固定や引き下げにつながることを警戒し、日本人並みの「平等」を訴えている。
編集委員 窪田 伸雄