暴走する性教育、生命の尊厳より「避妊」「中絶」

指導要領無視、都教委が問題視
東京・足立区、区立中学の公開授業

 「自分の性行動を考える」と題した公開授業が先月5日、東京都足立区の区立中学校で行われた。3年生を対象とした総合の人権教育として行われ、大学教授や教育関係者も参観に訪れたが、内容は避妊や中絶について詳しく説明するなど完全な性教育だった。文部科学省の学習指導要領では「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」は高校で指導する内容で、東京都教育委員会は「中学生の発達段階に合わない指導がされていた」と問題視している。
(社会部・石井孝秀)

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記者会見を行う「〝人間と性〟教育研究協議会」の幹事ら=6日午後、東京・西新宿の都庁(石井孝秀撮影)

 足立区教育委員会によると、授業内容は年間計画として事前に提出されており、区教委は許可を出している。保健体育の学習指導要領としては問題があるが、総合の授業ならば問題はないという認識で、担当者は「ただ避妊や中絶を教えるのでなく、生命を尊重することの大切さや相手を思いやることを学ぶ授業だ」と語る。

 だが、授業では、パートナーの男女がお互いを思いやることの大切さは語られたが、生まれてくる生命の尊厳についてはほとんど触れず、むしろ妊娠を性交する上での「リスク」として終始扱った。

 授業を行った女性教諭は「人間の性交は生殖の性以外に愛情表現を目的とした触れ合いの性という側面がある。人間は触れ合いの性が99%。だが、性交するたびに子供ができたら困るので、人間は避妊や中絶を編み出した」と、生徒に説明した。

 避妊についてはコンドームやピルのほか、避妊に失敗した際に妊娠を防ぐ手段として緊急避妊薬も紹介。これは性犯罪による望まない妊娠を防ぐために服用する薬で、教諭は「毎回、飲むものではない」と説明しながらも、値段や避妊薬の処方病院を紹介する連絡先などの情報も伝えた。また、安全に中絶できる期間を教え、「中絶はせざるを得ないこともある。絶対いけないことと思わないでもらいたい」と強調した。

 さらに、教諭が男女数人を指名し「高校生は性交渉してもいいと思うかどうか」といった質問に対して、同級生や参観者の前で答えさせた。「子供に責任を持てないので(性交渉は)よくないと思う」と答えた生徒もいたが、教諭は「でも好きなんだよ。避妊したらいいじゃない」と返す場面もあった。

 参観した住民の男性は「狙いとしては生徒に当事者意識を持たせるためだろうが、人前でセックスしていいかどうかを一人ひとりに言わせるのはどうかと思う。生徒から出た意見も受け止めていないように感じた」と、授業に疑問を呈した。

 中学の学習指導要領になく、その上具体的な内容に踏み込んだ指導には都教委も難色を示している。特に一斉指導として行ったことに問題があったと指摘。「性について考え方は多様だが、指導要領にないものは慎重に扱うべきだ。全ての子供が理解できるとも限らず、中には恐怖心や嫌悪感を感じる子もいるのではないか」と、懸念を表明した。

 今回の授業を「不適切」と先月16日の都議会で取り上げた古賀俊昭都議(自民党)は「結婚や家庭を築くことによって新しい生命を生み出すことは非常に神聖なこと。文部省時代には純潔教育という言葉も使われていた。責任を伴う行動を子供たちに促さなければならない」と訴えた。また、都教委も古賀都議に対して「一連の授業の検証を徹底して行い、指導を進める」と答弁した。

 古賀都議や都教委の対応に、性教育推進を目指す一般社団法人「“人間と性”教育研究協議会」(性教協)は「教育への不当介入だ」と反発し、今月6日に都庁(東京・西新宿)で記者会見を開いた。会見では世界の性教育より日本の性教育が遅れているとして、日本の学習指導要領を「実態と齟齬(そご)がある」と指摘。「学習指導要領に合わないと言うが、日本の子供だけ発達段階が違うのか。時代錯誤だ」と、学習指導要領を軽視する発言を繰り返した。同校で授業を行った教諭は同団体の幹事の一人だった。

 これに対して都教委は「中学生の発達段階に合わず、保護者からの理解も完全に得られているとは言い難い」と、改めて課題のある授業だったことを強調した。