少子化対策の根本的転換
従来の少子化対策の限界の第一は、少子化の主因は晩婚化・晩産化が進み、結婚・出産が「30代前半」に偏っていることにあるにもかかわらず、晩婚化・晩産化を食い止めるための対策がほとんど行われてこなかったことにある。
第二は、共働き家庭では、仕事と育児が両立できず、希望する子供の数が持てないという要因があるにもかかわらず、共働き家庭に対する子育て支援は保育所対策に終始し、大都市部と地方の格差に応じた対策が欠落している。
多子世帯に「親手当」を
第三は、3子以上の多子世帯が少ないことが問題であるにもかかわらず、多子世帯の子育て費用に対する経済的支援が不足、または組み込まれておらず、住宅など社会全体が単身者や第1子のみのケースが中心になっていることにある。
これらの点を踏まえて、今後求められるのは、第一に、結婚、出産を希望するすべての男女、子育て家庭に対する「結婚・出産・子育て支援」を展開し、若年世代の「働き方改革」を推進すること。
第二に、保育と育児休業の「二本立て」で支える政策に転換し、鳥取県や和歌山県のように在宅育児手当を導入し、子育ての仕方についての各家庭の選択を尊重し、給付の公平性を確保する必要がある。
第三に、各種子育て支援における「多子加算」の充実を図り、第3子以降、1人につき月額5万円程度の「親手当」を支給すること。親手当の発案者である明治大学の加藤彰彦教授は、「親手当という名称には、親の役割の公共性への支援という意図がある」と指摘している。
ちなみに、フランスでは「家族手当」が第2子以降の20歳未満の子供に支給されており、子供の数や年齢に応じて加算され、第3子のいる低所得の家庭では月額5万円程度の手当になる。
第四に、「家族省」か「人口省」を創設し、専門性に欠け、責任の所在が明らかでない、各省庁の調整官庁である内閣府中心の現体制を抜本的に改革し、出生率の回復のみならず、家族機能の維持・強化を含む包括的な家族政策を一元的に推進すること。
出生率を回復するためには、まず結婚や出産・子育て・家族の価値が社会的に承認・共有される必要がある。また、出生率向上のカギを握る20代が安心して結婚できるための支援策が重要である。結婚・出産・育児・家族の価値を社会全体で共有するためには、そのための根拠となる家族保護条項を憲法に明記する必要がある。
結婚・出産・子育ての価値を共有するためには、若い世代にとって、結婚・出産・子育てなどによって得られるものが、その費用や失うものよりもメリットが多いと感じられる社会をつくっていく必要がある。初婚年齢の上昇や若い世代での未婚率の増加が少子化の要因であることを踏まえ、それらに対して前向きな夢を持てる環境整備とライフデザイン教育が必要不可欠である。
35歳以降、妊娠力が低下するなどの妊娠適齢期に関する科学的知識を教育の中で提供し、その上で個人の自由な選択に任せることが大切である。結婚や子育て、家族を形成することが「幸せ」につながるというポジティブな面を強調し、晩婚化に歯止めをかけ、反転させていく必要がある。
第1子出産年齢が上昇し、高年齢になってからの妊娠・出産も増えているが、母体や子供へのリスクが高まるなど、妊娠・出産などに関する医学的・科学的根拠に基づく正しい知識を提供し、共育することが求められる。
保育無償化は再検討を
元内閣府少子化対策担当参事官の増田雅暢氏によれば、保育を無償化すると、家庭保育との大きなアンバランスが生じる。家庭保育を選択した人には補助がないので、保育所へのニーズを高め、かえって保育所の潜在需要を顕在化させ、待機児童を増やしかねない。
国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査によれば、子供が幼いうちは自宅で育てたいと希望している女性が過半数を占めているにもかかわらず、不公平が生じるのは、政策として妥当性を欠いている。
スウェーデンには0歳児保育はなく、イギリスは3、4歳、フランスは3~5歳、アメリカは多くの州が4歳児に無償化の対象を限定しており、こうした諸外国の幼児教育無償化の動向を踏まえて再検討する必要があろう。
(たかはし・しろう)