文政権の支持率低下が鮮明に

 韓国・文在寅政権の支持率低下が鮮明になってきた。家族の不正疑惑を抱える曺国氏の法相任命を強行したことが最大の原因とみられる。ただ、政権退陣を求める大規模な動きにつながるかは不透明だ。
(ソウル・上田勇実)

曺法相任命強行に国民反発
退陣運動の拡大は不透明

 大手世論調査機関の韓国ギャラップが先週実施した調査によると、文大統領の国政運営に対する評価は「支持する」が前週より3ポイント下落の40%、逆に「支持しない」は4ポイント上昇の53%だった。8月以降、支持率は下落し続けており、同社による調査で不支持が50%を超えたのは今回が初めてだ。

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19日、青瓦台の前で曺法相辞任を求める時局宣言を行う韓国の大学教授ら(韓国紙セゲイルボ提供)

 世代・地域別に見ると、30代と伝統的な左派地盤である南西部の全羅道を除く全ての世代と地域で不支持が支持を上回った。

 娘の名門大学不正入学疑惑に端を発する曺法相家族による一連の疑惑は一向に払拭されないままだ。それに加え多くの庶民は依然、景気回復の実感を抱けずにいる。こうしたマイナス材料が支持率低下につながっているとの見方が多い。

 曺氏の法相任命は世論の反発に遭うことを覚悟の上だったためか、この数字に青瓦台(大統領府)は「支持率が低下したからといって意気消沈したり方向性を失うのはかえって大きな問題ではないか」と平静を装った。

 また対日強硬政策は来年4月の総選挙に肯定的な影響を及ぼすと報告書で指摘し物議を醸した文大統領の側近、楊正哲・民主研究院長も職員宛ての書簡で「正しいという確信と信念があれば脇目も振らず押していくことができなければならない」と述べた。「曺法相任命に対する反発に動揺するなという意味」(韓国メディア)だ。

 ただ、与党・共に民主党からは「任命の後遺症は深刻」「予想より下落幅が大きい」(所属議員)などの反応も見られ、内心穏やかではない様子だ。

 曺氏の法相任命で国民の反発は確実に広がっている。英文表記の頭文字を取ってSKYと称されるソウル大学、高麗大学、延世大学のトップ3大学では、在学生と卒業生たちが自発的に各キャンパスで曺法相辞任を求める同時多発のろうそくデモが行われた。

 曺法相の娘は高校2年時に大学の医学研究所でわずか2週間のインターン活動をしたことだけで医学論文に筆頭著者として記載され、その実績を高麗大学の入試選考時の自己紹介文に記載した疑いなどが浮上。息子もソウル大学から虚偽のインターン証明書を発給してもらった疑惑が持ち上がっている。

 ある学生はデモで「一生懸命勉強して合格したが、チャンスは誰にも公平なものと信じた自分が情けない。政治や理念のためこの場に来たのではない。法相は誰よりも正義感が強くなければならないと思うから余計に腹が立つ」と述べた。

 ソウル大学教授という社会的地位と以前から文大統領に近かった特別な立場を利用し、自分の子供たちを不正に名門大学に入学させた疑いのある曺法相への怒りだ。

 一方、全国290大学の前職・現職の教授約3400人が連名で「正義と倫理が崩れ落ちた」とする時局宣言文を発表。全国約2900人の医師たちも自分の医師免許番号を明記して曺法相辞任を求める宣言文に署名した。

 曺法相任命強行は文大統領の責任問題に直結するが、今のところ政権退陣運動にまで広がるかは不透明だ。保守系の最大野党・自由韓国党は黄教安代表をはじめ頭を丸めて抗議の意を表したりハンガーストライキに突入したが、「国民に感動を与えられずにいる」(元韓国政府高官)などの理由で際立った支持率上昇は見られない。

 日韓米の安保連携に支障をきたす日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄も保守派にとっては安保危機を招いた政権を攻撃する絶好のチャンスとなったはずだが、日本絡みの懸案で日本に理解を示す姿勢は韓国社会で評価されにくいのが実情だ。