準備不足だった米朝首脳会談

元日朝国交正常化交渉日本政府代表 遠藤 哲也

当面「膠着状態」継続か
「緊張の再燃」のシナリオも

遠藤 哲也

元日朝国交正常化交渉日本政府代表
遠藤 哲也

 昨年6月8日、シンガポールで行われた第1回米朝首脳会談と、2回目となった2月27、28日のハノイでの会談は、いずれも政治ショー的な色彩が濃く、肝心の目標であった北朝鮮の非核化については、進展の乏しいものであった。通常、首脳会談は用意周到の下に行われるので、成功を収めるのが通例なのだが、決裂しなかったことが唯一の成果とは珍しいものであった。米朝交渉に伴う準備不足の結果であった。

 筆者はこれまで朝鮮半島の大きな出来事について、その動きをフォローし、今後の動きを占ってきたが、今回の首脳会談についても、評価と見通しを試みてみたい。

北の並進政策は表向き

 まず、米朝会談に対する北朝鮮および米国の思惑である。北朝鮮にとってはっきりしているのは、金正恩(朝鮮労働党委員長)体制を維持することにあり、核・ミサイル開発を推進し、経済を成長させたいと目論(もくろ)んでいる。それには米国の経済制裁を緩和する必要があるが、そのためにCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)のような非核化ではなく、最小限度の非核化をすることにあった。この両者を成立させるのが目標で、北朝鮮の言う並進政策の転換は表向きのものであろう。北朝鮮は対米交渉に生命を懸け、取り組んでいる。

 他方、米国にとっては、内政・外交両面における成果がほとんどなく、内政においては泥沼にはまっている中で、大統領再選を実現するという課題に直面しているトランプ米大統領にとっては、対北朝鮮外交はそのカードの一つである。内政面からの考慮が大きな比重を占めている。

 それに両国の外交を率いる最高指導者は、金正恩氏は世襲の独裁者、トランプ氏は独断専行、「ディール」なるものに対する過信等、両者ともに会談で何か探っていたのではないか。この観点から、第1回会談で非常に一般的な合意が形成されたものの、ハノイ会談で合意文書は作られなかったが、論点がある程度、明らかにされ、かつ今後も首脳会議を継続することが約束されたのである。

 この2回の首脳会談は一つの流れであったとはいえ、日本にとってプラスがなかったわけではないと言えるのは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の凍結を代償に、既に実質配備されたとみられる中距離核の温存など、妥協的な取引がなされなかったことである。

 今後の見通しについては、関係する変数が多過ぎて、非常に難しいが、幾つかのシナリオが考えられる。それらを以下に列記する。

 その一つは、しばらくの「膠着(こうちゃく)状態」である。少なくとも両国首脳が正面切って物別れしたのだから、すぐに会談再開というのは面子(めんつ)が許さない。しかも非核化をめぐる見解の差がはっきりした溝が露呈しているのだから、これを埋める努力がなされなければならない。

 第2のシナリオは、「第3回首脳会談の実現」である。そもそも双方に首脳会談を継続する意欲はあるのだから、水面下での接触、双方高官レベルの実務交渉が行われていく可能性は大いにある。CVIDを外交上の究極の目標と掲げつつも、現実的な取引が提案される可能性がないわけではない。

 第3のシナリオは「緊張の再燃」である。北朝鮮では相変わらず、核・ミサイルの開発を続けているようだし、瀬戸際外交は北朝鮮にとっては、お手の物である。米国側の動き、米韓合同軍事演習とか、トランプ氏のレトリックが火をつけかねぬ恐れもある。これまでのところ、米朝両方とも抑制的であるが、今後とも続くかどうか。トランプ陣営には、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)のような強硬論者もいる。

日米韓が協調し交渉を

 日本側としては、第2のシナリオに従って、事態が徐々に進んでいくことを期待しているだろうが、日米韓の協調の上で、それなりの外交努力を進めていくべきであり、それが拉致問題解決の一歩となることを期待している。

(えんどう・てつや)