護衛艦「いずも」改修論に一言

元統幕議長 杉山 蕃

対潜ヘリ運用に制約も
強襲揚陸艦の建造も検討を

杉山 蕃

元統幕議長 杉山 蕃

 1月の当欄で、F35B戦闘機の導入を前提にした、「いずも型」ヘリ搭載護衛艦(DDH)の改修に関連し、短距離離陸・垂直着陸戦闘機(STOVL)、強襲揚陸艦について紹介したが、引き続き海上航空防衛力の育成について私見を披露したい。

 海上航空防衛力は、およそ世界の海軍力において、主柱と言える重要な要素であり、海洋国家において欠くべからざる存在である。「空母」に代表されるこの機能は、航空機の能力向上とともに、ますますその価値を増加させている。海洋進出を目論(もくろ)む中国が、4隻の国産空母を中核に海上航空力の増勢に傾注しているのも必然の流れなのであろう。

 わが海上自衛隊は、この点、空母を持たない変則的な発展を遂げてきた。理由は大きく見て2点である。1点目は自衛隊創設以来「専守防衛」の立場から「空母」を攻撃的兵備の典型的なものとし、国会答弁等、公の場で「保有しない」ことを明言してきたことである。第2点は、海自創設の経緯から始まって、米国が一貫して空母保有に反対し、わが国海軍力の再膨張に歯止めをかけ続けてきたことである。

 このことは半面、米太平洋艦隊、就中(なかんずく)、在日米海軍の中核たる第7艦隊に主力空母を配置し、事あるごとに、空母増強配備を行って対応するという「日米防衛協力指針」に忠実な行動を取り続けてきたという経緯を形作ってきた。この結果、日米共同作戦においては、海上自衛隊は対潜戦を主力に周辺海域の作戦環境に貢献し、米海軍は海上航空を担当するという、よく言えば「機能分担型」の共同作戦の構図が出来上がってきたのである。

 しかしここ20年、わが国を取り巻く情勢は激変した。もちろんその最たるものは中国海軍の急激な膨張である。一帯一路構想・太平洋二分化構想、アジアインフラ投資銀行(AIIB)による開発途上国への影響力拡大・経済進出、南シナ海領海化構想等、一方的膨張構想を裏付ける後背力として、海軍力は無くてはならぬものなのであろう。空母部隊の建設、戦略原潜の建設、そして得意とする巡航ミサイル等各種誘導兵器の整備努力は、軍事情勢を一変させつつある。

 このような情勢では長年わが国を縛り続けてきた海上航空力への制約は、当然見直される時期に来ていたのである。このような情勢から、昨年末、検討の進んでいた新防衛大綱案を受け、ブエノスアイレス20カ国・地域(G20)サミットにおける日米首脳会談で、F35の追加購入が決定、トランプ米大統領が謝辞を述べたことにより明らかになった。このことは単に戦闘機の購入にとどまらず、米国がわが国の海上航空防衛力保有に一定の理解を示したこととなり、大きなエポックであったと考えている。

 今後の方向については次のように考えている。首相、官房長官談話では、「いずも型」改修について、常時戦闘機を搭載するのではなく、状況切迫、必要時に搭載運用するといった従来の国会答弁等との関連を慮(おもんぱか)った表現となったが、歯切れの悪いこと夥(おびただ)しい。ここは周辺国の海上航空能力の飛躍的増強に対応するため、ヘリ搭載護衛艦の改修等により、周辺海域、シーレーン防御能力の堅確化を図るといった表現にしてほしいし、このような表現が可能なように民意の構築を図っていく必要がある。

 さらに問題が残るのは、対潜能力の主柱であるDDHの任務を多様化することにより、ますます需要の高い対潜ヘリ運用に制約が生じることも憂慮される。いずも型(2隻)の改修、穴埋めする対潜能力の増強といった経費を考えるとSTOVL機運用を主柱とした新型護衛艦の建造を指向すべきだとする見方もできる。前回指摘したように、ワスプ級、アメリカ級の米海軍強襲揚陸艦は、正規空母に比し能力には差があるものの、戦闘機運用に優れた能力を有することから、ぜひ検討の対象としてほしいと考えている。

(すぎやま・しげる)