F35B導入と「いずも」改修

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

海空防衛力充実へ前進
対潜艦艇の増強等が急務に

 先月防衛省は、米海兵隊のF35B型機の導入を明らかにし、これに伴い「いずも型ヘリ搭載護衛艦」(DDH)をF35Bが運用可能なように改修することを公表した。そして、12月17日「新防衛計画の大綱」を閣議決定し追認することとなった。従来、新戦闘機選定には準備室を設ける等、十全の態勢を取ってきた経緯があり、今回の突然の発表に驚く半面、中国の異常な海軍力拡張、就中(なかんずく)壮大な空母部隊建設の状況から、基本的に我が海空防衛力の充実につながる事業としては結構なことと考えている。今回は比較的なじみの薄い垂直着陸機、強襲揚陸艦について紹介し、理解を深めることとしたい。

 F35Bは航空自衛隊が既に三沢基地に配備を開始しているF35Aと同様、開発初期には統合攻撃戦闘機(JSF)と呼ばれ、海・空・海兵の戦闘機および旧西側諸国が保有するF16、F18、ハリアーの後継を視野に統合プログラムとして発足した。主製造会社はロッキードマーティン社である。最終的な生産台数は5000機を超えると見られており、量産が始まっている最新鋭の第5世代戦闘機である。F35の基本的性能は、本格的なステルス性、超音速巡航、先進アビオニックス等に格段の先進性を持ち、ロシア、仏独、中国の第5世代候補機を一歩二歩リードした位置にある。

 統合開発であることから、海・空・海兵のそれぞれの要求を満たすため、3種の型式が開発された。空軍が主として運用する通常離着陸(CTOL)型はA型と呼ばれ、陸上基地を根拠として運用される。既に米空軍をはじめとして部隊装備が進んでおり、航空自衛隊も来年3月には最初の飛行隊が編成される予定である。今回焦点となったB型は海兵隊の要求により、短距離離陸・垂直着陸の機能(STOVL)を持つのが特徴で、主エンジンに90度を超える推力偏向機能を持たせた他、操縦席背後に垂直方向のエンジンを別途内蔵しているのが特徴である。既に部隊配備が進んでおり、在日米軍岩国海兵隊基地にも配備されている。C型は米海軍が空母搭載機として運用するもので、最も開発が遅れていたが、空母離着陸試験の動画もネット上公開され、開発終了も近いと考えられる。カタパルト離陸、拘束装置着陸機能が特徴である。

 次に強襲揚陸艦は、主として上陸作戦に使用する艦艇で、戦闘機・各種ヘリの作戦機、上陸用舟艇等を搭載、全通型の飛行甲板を有するのが特徴である。本型艦は、米国(ワスプ級、アメリカ級)が保有する他、英仏伊豪韓等の諸国も保有しており、海自の「いずも」「かが」「ひゅうが」も国際的な分類ではヘリ搭載対潜護衛艦ながら、広義の強襲揚陸艦と見られている。「いずも」の艦のサイズは2・5万㌧で、4万㌧を超える米国ワスプ級アメリカ級に次ぐと言ってよく、同時5機のヘリの離着陸が可能とされている。甲板長は250㍍で、ワスプ級と同等である。いかなる改修が実施されるのか不明であるが、先日第7艦隊に属する「ワスプ」で岩国F35Bが離着陸する動画が公開された。この動画では甲板に排気遮蔽(しゃへい)壁を設け、半長を使い短距離離陸する様子が報道された。「いずも」級でも同様の運用が実施されるのであろう。

 ワスプ級の搭載航空機数は、30機から40機とされ、作戦態様により、F35B、各種ヘリを混載するようである。おそらく「いずも」においてはワスプ級の半数から3分の2程度の搭載機数になろうことが推察される。米国が保有する強襲揚陸艦は約10隻であるが、今後これを主用していくべきだとする有力な意見がある。正規原子力空母(約10万㌧)1隻の建造費で、6ないし7隻の強襲揚陸艦が建造可能で、搭載可能作戦機数は2倍になるというのがその根拠である。今回の「いずも」改修は新しい時代を切り開くものとなる可能性がある。

 今回の「防衛計画の大綱」、新中期防の決定により、航空自衛隊が懸案としていた新機種問題が一挙に前進したのも大きな成果である。航空自衛隊は、支援戦闘機「F2」(約90機保有)の後継、続いて主力戦闘機「F15」の後継問題を抱えており、F2後継機については新大綱で方向を明らかにすることとされてきた。F15については、近代化改修が進行中であり保有機約200機のうち約半数が改修対象となっており、残りの約半数の後継を検討すべき時期が来つつあった。今回の決定により既に導入を開始しているF35A42機に加えて105機を購入、合計147機のF35を導入する事とされた。うち新中期防においてF35A27機、F35B18機が調達される。懸案のF2後継については「我が国主体の共同開発」の方向が決定され、これも大きく前進したと言える。

 こうして見ると、今回の「いずも」改修、F35導入の決定は、航空戦力の充実、海上航空育成への足掛かり等建設的な施策であることは間違いない。半面、自衛隊にとっては経験のない戦闘機の洋上運用は、あらゆる面で抜本的な施策を必要とし、創造的な活動を開始することとなる。また対潜活動の主力艦の用途を拡大することになり、対潜能力の拡大が急務となりつつある状況から、対潜艦艇の増強等の処置を検討する等、新たな展開が期待されるところであり、新しい一歩を着実に踏み出してほしい。

(すぎやま・しげる)