NGI構想で地方創生を
エルドリッヂ研究所代表・政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ
国内外の若者で支援組織
地元と連携、中小企業を活性化
昨今、実質的な移民政策である外国人材の受け入れ拡大をめぐる議論が行われているが、多くの疑念が残っている。人口減少、地方創生などの問題が長く続いているが、国会での議論が異例に短く不十分だという気がする。そもそも、日本には人材が本当に足りないのか、人手が不足しているのかという根本的な疑問がある。筆者は30年近く日本に住んできたが、日本の経済は非効率的で、合理化する必要があるとみている。また、東京などの大都市に人口が集中し過ぎている深刻な問題もあり、それを解決しない限り、いくら「移民」を受け入れても地方の過疎化が進んでしまうだけだ。日本経済の非効率さと一極集中現象の問題点については別の機会で述べたいと思うが、外国人材採用を拡大するなら、とにかく賢く行ってほしい。
外国人材の貢献度はさまざまあるが、筆者が注目しているのは、イノベーション(革新)できる人材だ。日本は、労働者というより、労働力がそれほどかからない新しい産業、新しい製品などの開発が必要とされる。いわゆるイノベーションが必要だ。それに向けて筆者は数年前から、地方創生をはじめ、中小企業の活性化、貿易などを意識した戦略的な国際交流(拙論「日本に欠ける姉妹都市戦略」9月18日付本欄を参照)、小・中・高校と連携した起業家精神教育などなどを盛り込んだ「ニュージェネレーション・インスティチュート」(NGI)構想を提案し、各地で協議している。
このNGI構想は、イノベーション、インターナショナル、インタディスプリネリー(学際的)、インキュベーターという四つのキーワードを重んじている。非営利的な組織として、日本全国の1741の地方自治体で展開したいと考えているが、田舎であればあるほど、意味があると思われる。なぜなら、これは人材派遣会社ではなく、各中小企業を活性化することで地域全体の活性化につなげるためのものである。
全国の自治体がほぼ同じ悩みや課題を抱える。人口減少、労働力の確保、企業の倒産(後継者不在や人手不足などが原因)、財政赤字、空き家問題、若者流出、生涯独身の住民など――だ。こうした課題は、政府が提示した外国人労働者拡大だけでは解決できない。NGI構想は、相乗効果や公共政策的対応で、問題の解消や解決を目指す。
各地方自治体にインスティチュート(研究所)を設け、そのインスティチュートは、地元の中小企業の代わりに国内外の人材をマッチングするサービスを提供しながら、行政、学校、市民社会と連携し、さまざまな地域課題にも取り組む。行政であれば、国際交流課、観光産業(商工)課、教育委員会などの仕事の一部も引き受け、行政の負担を減らす。
学校であれば、優れている人材の紹介・派遣、上記の起業家精神教育を放課後に提供し、不登校の子供たちのための特別な事業を行い、社会復帰ができるような助けをする。つまり、地方の潜在的な可能性と魅力を結集しながら、各地域の個別の問題解決に取り組む仕組みだ。
各地域のNGIは、中心の原動力になる中小企業や商工会のニーズを聞きながら、それに合った人材を広いネットワークから国内外で探す。マッチする人材があった場合、その受け入れ支援を行う。つまり、中小企業にとって最も難しい分野である人事の業務は、NGIが行う。そして採用される「フェロー(研究員)」は、その企業にとって最も困っているイノベーションの手伝いをする。
NGIが目指しているフェローの構成は、25%がその地域から採用する。地域の定義は今後の課題であるが、対象者は若手の日本人だ。そして次の25%は、その地域以外の国内の日本人人材だ。移住に関心のある、あるいはその分野の仕事で貢献したい人々だ。次の25%は日本以外のアジア太平洋地域から来るフェローたち。最後の25%は、アジア太平洋地域以外の世界から来るフェローだ。そうすれば極めて国際的になるが、同時に日本人は半分になる。
これらの人々は、最新の教育を持つ20代の若者だ。やる気満々の世代で、自分たちの可能性やアイデアを発信したい人々だ。彼らのエネルギーを、設備が整い、ノウハウや歴史を持つ日本の中小企業とマッチングすることで、ものすごいイノベーションが生れ、さらなる発展も期待できる。どうせ人を採用するなら、会社が生き残るための知的な貢献ができる人を集めればよい。
日本人か外国人かを問わず、彼らは最終的にその地域に定住し、その会社の後継者になり、地元の人と結婚して家庭を築き、人口を増やし、場合によっては自分の企業を創業するなどの道がある。帰国した場合、その町と自分の故郷の懸け橋になることも考えられ、新しい貿易や国際交流もできるかもしれない。
NGIを通して企業も活性化し、地域の活性化にもつながる。元気な地域は元気な日本につながる。参加したい企業、商工会、地方自治体やその市民団体があれば、「NGI構想実行委員会」までご連絡頂ければ幸いだ。
(info@reedintl.com)