米中軸に「第2次冷戦」到来

櫻田 淳東洋学園大学教授 櫻田 淳

「激突の場」は朝鮮半島
選択を迫られる文在寅政権

 「第2次冷戦」の到来が、国際情勢観察に際しての一つの「共通認識」になりつつある。「ウォール・ストリート・ジャーナル」(電子版、10月12日配信)は、「米国が中国との新冷戦時代ににじり寄って行く(“U.S. Edges Toward New Cold-War Era With China”)」と題された特集記事を掲載した。

 去る10月4日、マイク・ペンス(米国副大統領)が、ニューヨーク・ハドソン研究所で行った演説(以降、「ハドソン演説」)では、包括的な対中政策方針が提示され、それは、経済だけではなく安全保障や価値意識といった広い領域での中国との「懸隔」や「異質性」を強調する中身になっている。

 ウォルター・ラッセル・ミード(政治学者)は、この「ハドソン演説」を「米中関係にとって、1971年のヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官の訪中以来、最大の転機」と評した上で、「中国がこれに反応し、また新たな米中の対立関係に対して他の国々が自国のアプローチを策定するのに伴い、新たな国際社会の現実が形成されていくだろう」と述べている。

 「ハドソン演説」は、ドナルド・J・トランプ(米国大統領)麾下(きか)の米国政府の対中強硬姿勢が「トランプ後」も続く事情を示唆した。それは、確かに「第2次冷戦」の宣言なのであろう。

 ところで、米中両国を軸にした「第2次冷戦」が始まろうとしているという観測が正しいとすれば、その「激突の場」になるのが日本を取り巻く東アジア地域・西太平洋海域、特に朝鮮半島であるのは、論を俟(ま)たない。その構図の中では、朝鮮半島2国、特に韓国は、どちら側に立つのか。「第1次冷戦」局面では、韓国が日米両国にとって「こちら側」にあるのは、自明であったわけであるけれども、「第2次冷戦」局面では、そうでないかもしれない。

 現下の日韓関係を彩る風景は、多くのネガティブ要因だけではなく、たとえば1998年の「日韓パートナーシップ宣言」のようなポジティブ要因を取り上げてみても、結局、「冷戦間期」の国際環境を反映したものである。そうであるならば、「第2次冷戦」局面では、次のように問われる必要が出てこよう。「韓国は、中露両国や北朝鮮のような大陸勢力に対する『防波堤』の役割に徹する気があるか」。日本にとっては、これが対韓関係に寄せる国益の筆頭である。

 実際のところは、韓国にとっては、「第2次冷戦」局面の国際環境への適応は、かなり難しいものになるかもしれない。「民主主義」「南北融和」「グローバリゼーションの波に乗った経済発展」「対中関係や対露関係における外交の幅」「日本に対する『尊大』姿勢」といった当代韓国を彩るさまざまな相は、「第1次冷戦」後、韓国にとって「米国か中国か」という選択に悩む必要がなくなった時代の所産である。

 「安全保障は米国、経済は中国」という「米国も中国も」の姿勢が通用せず、「米国か中国か」という選択に再び迫られるようになる環境下で、韓国は、どのように対応するのか。目下、文在寅(韓国大統領)は、過去30年の韓国にとっての「幸福な時代」の惰性を反映して、「米国も中国も」という姿勢が続けられると錯覚してはいないであろうか。

 「第2次冷戦」の風景が顕(あきら)かに現れつつある中、「金正恩(北朝鮮国務委員長)の報道官」と揶揄(やゆ)されながらも、「南北融和」の実現に没頭する文在寅の姿勢は、北朝鮮が中露両国の影響から脱せない事情を前にする時、米国に対しては不実なものであろう。文在寅は自らの対米不実に果たして気付いているであろうか。

 韓国に比べれば、「米国か中国か」の選択に悩む必要のない日本の立場は、実に単純である。「第1次冷戦」局面でも「冷戦間期」でも、そして「第2次冷戦」局面でも、米国を含む「西方世界」の側に立つのが、日本の一貫した方針である。

 前に触れたペンスの「ハドソン演説」には次のような一節がある。「われわれは、自由で開かれたインド太平洋というビジョンを前進させるために、インドからサモアに至るまで、地域全体で価値観を共有する国々との間に、新たなより強固な絆を築いているところである。われわれの関係は、支配ではなくパートナーシップの上に築かれた尊敬の精神から生まれている」

 この一節には、日本の対応の方向が示唆されていると言えよう。要するに、日本としては、ペンスが披露した「自由で開かれたインド太平洋というビジョンを前進させるために、価値観を共有する国々との間に、新たなより強固な絆を築く」方針に、真面目に呼応することである。

 こうした対応は、日本にとっては何ら難しいものではない。今は、日本の対外政策上の揺るぎない「軸足」を確認すべき時節である。

(敬称略)

(さくらだ・じゅん)