暮らしの中のメンタルヘルス
「心の免疫力」高めよう
感情調整力生かし回復力養う
「メカ化社会」の昨今、これまでとは異なる〈テクノ・ストレス〉(新型ストレス)によって人々の心は萎(な)えて、傷つきやすく(バルネラブル)になり、脆弱(ぜいじゃく)化が加速しつつあるのではなかろうか。そこで今、求められるのは「感情調整力」を生かしつつ「精神的回復力」(レジリエンス)を養い、復元力によって「心の免疫力」を高める処方箋ではないかと思うのである。
その処方箋の主なものを考えてみたいと思う。
・人間に備わっている「自然治癒力」を生かす。
パスカルの語る如(ごと)くに“人間は恰(あたか)も、一本の葦(あし)の如き弱く折れやすいもの”(『パンセ』)でありつつも、時には、強(したた)かに図太く折れにくい強靭(きょうじん)さ(ロバストネス)を兼ね備えているということ。それこそが、復元力として「心の免疫力」を養う源ではなかろうか。
・人間は不利な状況を有利な状況に変える力を秘めている。
“できると思う故にできる”のであるとは、ウェルギリウス(古代ローマの詩人)の言葉であるが、心理学者アルフレッド・アドラーは、人間は“マイナスの状態からプラスの状態に変える力を持っている”と言う。
・まず、できることから着手すること。
気乗りや気分に長い時間をかけずに始めることで、始めれば自然に気分が湧いてくる。つまり、「気分本位」ではなく「行動本位」ということに他ならないのである(森田療法)。
・多くの苦しみは、まさしくそれに耐えられるように定められている。
それは、まさしく聖書に“試練と同時に、それに耐えられるように、のがれる道を備えてくださるのである”(コリント人への第一の手紙10章13節)と述べている。
カール・ヒルティは、“苦しみを通してのみ、人生の使命が実現される”と語っている(『幸福論』)。
・日常の些細(ささい)なことに幸せを感じること。
“幸せは、小さな便宜から生ずる”と語ったのは、ベンジャミン・フランクリン(アメリカの政治家)である。例えば、“餓え来りて飯を喫し、倦(う)み来りて眠る”の如くである(『菜根譚(さいこんたん)』後集35)。
・「いい場」に身を置くということ。
それは生命エネルギーを高めることで、「いい場」(環境)に身を置くことは〈感情感染効果〉によって、自分の気力を高めることでもある。これは「借境調心」(置かれた境を借りて、心を調える)ということでもある(『菜根譚』後集45)。
・「ゆっくり」「ゆったり」と心身を養う。
心身ともに免疫力を養うには、まず体を弛めて「ゆっくり」と、心を過去の拘(こだわ)りをほぐして「ゆったり」として、新たな思いで生命力を養うことが必要ではなかろうか。
・大事なことこそ余裕を持って熟慮を。
重要なことこそゆとりを持ってよく熟慮し、その時間の経過とともに解決の兆しが見えてくる。これを「時薬(ときぐすり)効果」ということができるのではなかろうか。
・時間を得る最善の方法は規則的な生活である。
規則正しい生活こそ、特に中年以後は心と体の健康を保つ最善の方法である。そして、健康を維持する最上の方法は、節度ある規則正しい生活である。
・適度な休養と適切な睡眠で心身を養う。
ストレス解消には、まず「休養」が有効であり、「睡眠」は脳の疲れの回復に最適である。ヴォルテール(フランスの啓蒙(けいもう)思想家)は、こう語っている。“神はこの世における心配事の償いとして、われわれに希望と睡眠を与え賜う”と。
まとめとして、「希望が人生を支える」。
今、日々の暮らしの中で「メンタルヘルス」(心の健やかさ)が求められている。
それには、「今」を大切に、一日一日を希望を持って感謝の念を抱きつつ「柔軟性」(フレキシビリティー)にして「強靭的」かつ「臨機応変」な開き直りの心の処方箋が大事ではなかろうか。
そして、“人事を尽くして天命を待つ”の心境を怠りなく持ち続けたいと思うのである。これこそが、「レジリエント(精神的回復力)の健康法」ではないかと思うのである。
ルネ・デュボス教授(ロックフェラー大学)はこう述べている。“健康とは、人生の目的を成就するために最も適した心身の状態である”と(『健康という幻想』)。
たとえ、「老い」と「病」を身に受けつつも“明日死ぬかのように生きよ、永遠に生きるかのように学べ”(インドの政治家マハトマ・ガンジー)と切に願うものである。
(ねもと・かずお)