器問われるトランプ大統領

米コラムニスト マーク・ティーセン

マケイン氏攻撃に終始
経済好調も支持率は低迷

マーク・ティーセン

 建国以来、合衆国上院議員は1974人いる。大統領と副大統領以外で、議会議事堂に遺体が公開安置された上院議員は、ジョン・マケイン氏が8人目だ。米国史上、個人としてこれほどの称賛を受けたのは31人目だ。しかし、記憶する限り、これほどの人物の葬儀やその他の式典に現職大統領が出席しなかったのは初めてだ。しかも、参席できなかったのは、大統領自らの言動のせいだった。

 トランプ大統領は、マケイン氏死去の数日前の8月21日にも、ウェストバージニア州での集会でマケイン氏を非難し、「(オバマケアを)打ちのめしたが、1人の男が、誰のことかは誰も分からないと思うが、反対票を投じた。衝撃的だ」と断言した。テネシー、ネバダ、サウスカロライナ、ミネソタ、ニューヨーク州での集会でもこの夏、同じような攻撃を行った。先月のジョン・S・マケイン国防権限法の署名式典では、マケイン氏の名前を口にすることすらせず、スピーチの中で法案名からマケイン氏の名前を外した。この権限法案は、マケイン氏が議長を務める上院軍事委員会を通過した最後の法案となった。ジーナ・ハスペル氏の中央情報局(CIA)長官指名にマケイン氏が反対したことに関して大統領補佐官が「いずれにしても死ぬ」のだから「大したことではない」と言い放った時、トランプ氏は、サンダース大統領報道官が謝罪するのを許可しなかった。8月25日のマケイン氏の死去後、ホワイトハウスは半旗を掲げたが、27日にはもう元に戻された。その後、退役軍人団体からの抗議を受けて、再び半旗にした。マケイン氏の死去について記者団にコメントを求められるとトランプ氏は、黙ったまま前を見るばかりで、思いやりの言葉を発することはできず、そのようなそぶりも見せなかった。

◇戦争捕虜への侮辱

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8月31日、ワシントンの連邦議会に安置されたジョン・マケイン氏の棺(UPI)

 その上、「私は捕虜にならない人が好き」だから、マケイン氏は「英雄ではない」と言ったことについて、トランプ氏はまだ謝罪していない。マケイン氏に対する侮辱であるばかりか、米国の全戦争捕虜に対する侮辱だ。マケイン氏の家族が、星条旗が掛けられた棺(ひつぎ)にトランプ氏は近づいてほしくないと思ったとしても不思議ではない。

 トランプ氏はマケイン氏が好きではなかった。なるほどと思える部分もある。しかし、大統領なら、嫌っている相手でも、嫌われている相手でも、敬意を払うべき時がある。個人的、政治的な相違を脇に置いて、個人としてではなく、任されている地位、任されている国の代表として振る舞わなければならない。トランプ氏は、国益が関係する場合でも、個人的な利益が関係する場合でも、生来、そのような場面にうまく対応できるようにはできていないようだ。

 マケイン氏と親交があり、トランプ氏の支持者でもあるリンゼー・グラハム上院議員はトランプ氏に、マケイン氏への攻撃は「(大統領としての)職務にふさわしくない」と「何度か」進言し、「大統領の助けになるとは思えない」と伝えたことを明らかにしている。マケイン氏非難は逆に、トランプ氏を傷つけている。経済が好調で、失業率は近年なかったほど下がり、工場での雇用も数十年ぶりに急増しているにもかかわらず、ワシントン・ポスト/ABCの最新の世論調査で、国民の60%がトランプ氏を支持しないという結果が出るのは、このことが一因だ。この60%の中には、自称保守派の31%も含まれている。世論調査で高い支持を受け、経済での成功に対する悲観論にも打ち勝てるはずなのに、国内総生産(GDP)と不支持率の両方を同時に引き上げている。

◇民主党の偽善

 民主党が、マケイン氏の死去を利用し、トランプ氏のイメージを悪化させたことは確かだ。民主党がマケイン氏を称(たた)えるのは、都合のいい時だけだ。2008年に大統領選に出馬した時、民主党は激しく攻撃した。しかし、民主党のしたことが偽善であっても、トランプ氏の無礼な態度が正当化されることはない。

 最高裁のアンソニー・ケネディ判事の後任にトランプ氏が指名したブレット・カバノー氏の指名承認公聴会が上院で始まる。保守派は、ヒラリー・クリントン氏ではなくトランプ氏が大統領でよかったと感じている。しかし、今回のことで、政策が成功しているからといって、嫌悪すべき態度を取っていいということにはならないことを改めて思い起こすことができた。トランプ氏が、大統領として、必要な時に必要な対応ができなければ、成功した大統領にはなれても、偉大な大統領には決してなれない。

(9月5日)