島サミットに台湾も招待を
西太平洋まで範囲拡大
開かれたインド太平洋実現へ
2015年12月にインドを訪問した安倍首相は、モディ首相とともに「インド太平洋地域と世界の平和と繁栄のための協働」を謳(うた)う共同声明を発した。これは、「インド太平洋地域及び更に広範な地域」において「平和的で開かれ、公正で、安定した、規則に基づく秩序を実現するための断固としたコミットメント」を表明するものであった。
この延長線上で、16年8月に安倍首相が第6回アフリカ開発会議(TICAD Ⅵ、ケニアで開催)で打ち出したのが、「自由で開かれたインド太平洋戦略」(Free and Open Indo-Pacific Strategy)である。これは、海洋安全保障協力やインフラ整備などを包含するもので、日本の総合的な外交・防衛戦略である。
17年11月、初めてアジアを歴訪したトランプ米大統領は安倍構想に呼応して、米日が主導してインド太平洋戦略を推進することに意欲を示した。
かつて日米安保条約があるとアメリカの戦争に「日本が巻き込まれる」という視野狭窄(きょうさく)的議論があった。しかし今や日本が打ち出した外交戦略にアメリカが乗っかる時代となったのである。また「世界の警察官」を放棄した今日のアメリカを相手に、米軍を東アジアに留め置かせること、つまり、アメリカを日本の安全保障に巻き込むことが、これからの日本の安全保障では重要になる。
去る5月18、19の2日間、島嶼(とうしょ)国14カ国と日本、オーストラリア、ニュージーランドの合計17カ国等の参加による「第8回太平洋・島サミット(PALM8)」が福島県いわき市で開催された。太平洋・島サミットは、もともと親日的な国々が多いミクロネシア、メラネシア、ポリネシアの太平洋の島嶼国との関係強化を目指して橋本龍太郎首相当時の1997年に初めて開催され、それ以来3年に1度の割合で続けられてきた。そこでは太平洋島嶼国が抱える共通の課題について解決策を探るとともに、太平洋島嶼地域の安定と繁栄を目指して首脳レベルの議論が行われてきた。
今回は、日本が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を打ち出して以来、初めての開催となった。このため安倍首相は、5月15日からサミット開催期間中までに、来日した全ての島嶼国首脳と2国間首脳会談を持ち、その都度「自由で開かれたインド太平洋」の具体化に向けた連携を強調した。
さらに19日の首脳会合における冒頭発言で、安倍首相は、太平洋を「青の大陸」と表現し、「『緑を守れ』というのと同じ情熱を込め、私たちはもっと、『青を守れ』と申しましょう」と主張した。さらに第一に力を入れるべきことは、海の秩序に法の支配を打ち立てることであると述べ、「太平洋で我々が昔から持っている権利を、国の大小に関わりなく守ってくれるのが法の支配」であると指摘した。その上で、「太平洋といい、インド洋と呼んで区別する習わしは、あくまで人為的で、便宜的なもの」であり、「私たちが生きる『青の太平洋』は、『青のインド洋』と一体で」あるとの認識を示し、「機会と可能性は二つの海に共存し、解くべき問いと、募る危機も、両洋をまたいで不可分」であると強調した。この発言は、今回のPALM8の底流に「自由で開かれたインド太平洋戦略」があり、さらには海洋進出を加速させる中国の、覇権主義的野望に対抗する日本の外交戦略があったことをうかがわせるものであった。
太平洋島嶼国との連携が、「自由で開かれたインド太平洋戦略」に組み込まれるものとすれば、そして「青の太平洋」と「青のインド洋」にまたがる危機が、二つの海において「一体不可分」であるとするなら、連携すべき太平洋島嶼国の範囲は西太平洋にまで及ぶべきである。そうであれば、この海域の地政学的要衝に位置し、自由と民主主義、そして法の支配という価値観で日本と一致する台湾も、PALMのメンバーに含めるべきである。去る6月18日に、アメリカ上院は、2019年国防授権法を85対10で可決したが、その中には、米国の軍事演習に台湾軍の参加を可とする条項が含まれている。26日には、戦略防衛問題研究所(CSIS)のボニー・グレイザー氏が、ソロモン群島での米海軍演習に台湾軍の参加を求めることに言及した。そこには、太平洋の平和のために、台湾の参加を求める潮流がある。
今回のPALM8では、従来から参加している太平洋島嶼国14に加えて、ニューカレドニアと仏領ポリネシアが招かれた。両者はともにフランスの海外領土であって独立主権国家ではない。しかし、PALM8の目的達成のため、また「自由で開かれたインド太平洋戦略」のため、主権国家かどうかにかかわらず参加の枠は拡大されたのである。この基準で考えれば、次回から台湾の代表の参加を求めることも可能ではないか。
次回の太平洋・島サミットが開催されるのは21年となる。第1回の会合から今日まで、日本の首相は10回交代し、その間には民主党政権もあったが21年間継続してきた。そうだとすれば、その時の日本の首相が誰であっても、3年後には再び太平洋・島サミット(PALM9)が開かれるだろう。その際には台湾の首脳も招かれることを期待したい。
(あさの・かずお)