クシュナー氏ら中東諸国歴訪、米独自の和平案に支持求める

 トランプ米大統領の娘婿で中東和平仲介を担当するクシュナー大統領上級顧問らは先月、イスラエルをはじめ、ヨルダン、サウジアラビア、エジプトなど中東の関係諸国を歴訪した。各国政府と米独自のパレスチナ和平案を協議、支持を求めたとみられている。(エルサレム・森田貴裕)

パレスチナ側は会談拒否
トランプ政権、ハマスと取引か

 イスラエルのネタニヤフ首相は先月18日、ヨルダンの首都アンマンを訪問し、アブドラ国王と会談。中東和平プロセスや両国関係を協議した。クシュナー氏らの中東関係諸国の歴訪を前に、事前協議を行ったとみられる。

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2日、パレスチナ自治区ラマラで「パレスチナは売り物ではない」と書いたプラカードを掲げ、米和平案拒否を訴える住民ら(UPI)

 クシュナー氏ら米高官は先月22日、エルサレムでネタニヤフ首相と会談。トランプ政権の和平案やパレスチナ自治区ガザの人道状況について協議した。会談には、トランプ政権で中東和平を担当するグリーンブラット外交交渉特別代表も同席した。

 トランプ大統領はイスラエルとパレスチナ和平を「世紀のディール(取引)」と位置付け、中東和平の実現に意欲を示している。パレスチナは、トランプ政権がエルサレムをイスラエルの首都と認定し、テルアビブの在イスラエル大使館をエルサレムへ移転したことに猛反発しており、米単独での和平仲介を拒否。パレスチナ自治政府のアッバス議長は、「トランプ氏の世紀のディールは世紀の侮辱であり、われわれは受け入れない」と強く反発している。

 クシュナー氏は先月24日付のパレスチナ紙アルクッズのインタビューで、和平案が「ほぼ完成した」と語った。クシュナー氏は「アッバス議長が交渉の席に戻ってくることができれば、われわれも関与する用意があるが、戻らなければ、和平案を公に提示することになるだろう」と述べ、パレスチナ側の同意なしでも一方的に公表する可能性があることを明らかにした。加えて「アッバス議長に取引に乗り出す能力と意思がどれだけあるのか疑問だ。彼の論点は過去25年間変わっていない」と批判した。クシュナー氏は和平案の内容など詳細については語らなかった。

 自治政府のアリカット首席交渉官は、「米政権はパレスチナの穏健派陣営を破壊しようとしている。われわれを混乱と無政府状態に陥れたいのだ」と批判した。

 ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラでは2日、トランプ米政権が近く提示するとされている和平案を阻止するための抗議デモが行われた。内容はまだ明らかにされていないが、米国やイスラエルのメディアが報じた情報を基に、デモ参加者は「ディールにノー」「パレスチナは売り物ではない」と拒否する姿勢を示した。

 米露、欧州連合(EU)、国連で構成する仲介役の中東カルテットの一員でもあるロシアは、米国一国で解決することはできないとしている。ロシアのボグダノフ外務次官は、「われわれにはカルテットがある。重要なのは、イスラエルとパレスチナの双方が交渉のテーブルに着くことだ」と述べ、両当事者による交渉の努力を支持する立場を表明した。

 イスラム根本主義組織ハマスが実効支配するガザ地区のイスラエルとの境界近くでは、米国とイスラエルに反発する数千人のパレスチナ人による抗議デモが続けられている。イスラエル南部のガザ周辺地域では、連日、発火物をぶら下げた火炎凧(たこ)やバルーンが飛来し、農地や森林に火災が発生している。この状況に対し、武力を行使するかどうか、イスラエルでは論議が続けられている。

 クシュナー氏の中東歴訪の後、イスラエルは、人口200万人のガザへの人道支援物資や商品などをイスラエル経由の陸路ではなく、キプロス島に特別に桟橋を建設し、貨物船でガザへ搬入する計画を明らかにした。ただし、この計画には、イスラエル兵2人の遺骨とイスラエル人捕虜3人を解放するというハマスの合意が条件付けられているという。

 このトランプ政権によるものとみられるディールに、ハマス側が応じるのかが注目される。