ミサイル対処方策の決定に思う
元統幕議長 杉山 蕃
一層のイージス艦増艦を
陸自のデジタル化推進も必須
政府は12月18日、6月に断念した陸上配備型迎撃システム「イージスアショア」に代わる代替方策について閣議決定し公表した。6月以降数次にわたる国家安全保障会議(NSC)を経て決定されたもので、周辺国の弾道弾開発に対応する方策が決まった。実に結構なことと考えているが、種々の課題を抱えており、今後の在り方を考えてみたい。
抑止力強化の検討継続
閣議決定の内容は、大要4点に絞られる。イージスアショアに代わるミサイル迎撃システムとして新型イージス艦2隻を建造する。陸自12式地対艦ミサイルの射程を延長、スタンドオフ性を高くし、海空の対艦ミサイルにも適応する。敵基地攻撃能力には触れず遠距離からの対艦攻撃能力とした。抑止力の強化について引き続き政府において検討するという4点である。
本問題を理解する上でキーとなる「スタンダードミサイル(略称SM)」について触れる。SMは米海軍艦載用対空迎撃弾で、1960年代に開発された「ターター」をはじめとする対空弾の後継として開発された米海軍対空システムの根幹(スタンダード)をなすもので、67年に初調達された長い歴史を持つ。当初型(SM1)から逐次性能向上型が開発されSM1、2、3と呼称される。1型は対航空機、2型はイージスシステムに対応した対ミサイル、3型は対弾道弾対処をそれぞれ重点とすると考えて大略間違いがない。
もちろん各型には、能力向上の派生型があって、例えば海自が現有するイージス艦はSM3であるが、BLⅡAといわれる新型で中距離弾道弾(IRBM)の対処が可能であるが、大陸間弾道弾(ICBM)や高軌道(ロフテッド軌道)への対応は限定的である。目下米国は、BLⅡBを開発中でこれはICBM、ロフテッド共に対処可能とされ、我が国の研究開発参加が米議会で承認されている。
話題のイージスアショアは、艦艇用と全く同じシステムを陸上配置としたものでルーマニア、ドイツ、スペインに配備されつつあるが、タイプは海自と同じSM3・BLⅡAであるとされる。
こうして見ると、SMシステムは、ICBM、ロフテッド軌道、多弾頭ミサイル(MIRV)等への対応は未完、開発継続中と言ってよい。従って、とりあえずは、まだまだ増艦の必要性の高いイージス艦を代替手段とし、「抑止力の強化について引き続き検討する」とした方針は肯定されるべきものと考えている。
陸上配備のシステムに比し、天候、海象の影響、艦の整備所要を考えると2隻では不十分とする意見が上がっているが、もともと艦艇数は、中国海軍の状況から我が国は危機的に不足している状況にあり、今後イージスを筆頭に増強が必要なのは明らかで、その一段階と捉えていくことが重要と考えている。
今回の決定で、残念なのは、陸上自衛隊のデジタル化、IT化の絶好の機会を逸した感があることである。どこの軍事組織も同様であるが、陸軍の近代化、デジタル化は共通の課題である。かつて筆者は、イージスアショアの導入が決まった場合、陸上自衛隊に配備し、宇宙戦という秒単位の厳しい対応が求められる要求に応えるため、陸上自衛隊の抜本的な近代化促進を期待し、本欄で意見を披露したことがあった。今回残念ながらその好機を逸した感がある。
しかし、対艦ミサイル部隊(12式ミサイル)の射程延伸が盛り込まれたことで、これをトリガーにデジタル化を推進してほしいと考えている。新聞報道では、現状100カイリ程度の射程を、800キロを目途(めど)とするスタンドオフ攻撃能力に強化するという。これは大変な進歩で、大いに期待しているところである。
800キロといえば砲術的には地球の湾曲表面の影響で、直接照準することは不可能で、衛星、航空機、あるいはドローンといった手段を中継しなければならない。自前のセンサーを保有するか、海自、空自のセンサーシステムと統合的に連接するかといった判断が必要であるが、いずれにせよネットワーク戦にふさわしい近代的システムに脱皮する必要は目に見えている。
長射程兵器への対応を
今般の情勢は、北朝鮮のみならず、弾道弾、クルーズミサイル、超高速滑空弾等、長射程攻撃兵器の開発が、たけなわの状況にあり、その帰趨(きすう)は予断を許さない。我が国としては、継続した研究・検討により、適時対応していく努力を継続しなければならない。
(すぎやま・しげる)






