コロナ後の日本再生は大学改革から
エルドリッヂ研究所代表、政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ
知的刺激が少ない国立大
日本型クォーター制の導入を
今からちょうど15年前、大阪大学大学院国際公共政策研究科の准教授だった筆者は、在外研究先の米ハワイ州オアフ島にある太平洋海兵隊の司令部での客員研究員としての在外研究期間を終えようとしていた。2004年8月から始まった在外研究は珍しい内容だった。
普通の在外研究あるいは研究休暇は、大学や研究所で行うものだ。安全保障政策の現場について知りたい筆者の意向を知っていた米軍は、私のために特別なポストを用意し、秘密文書の作成や会議に参加する資格を与えてくれた。とても刺激のある一年だったのは言うまでもない。
低い教員や職員の士気
これに対して、日本の国立大学では知的な刺激がほとんどなく、雑用と雑務ばかりだ。大阪大学に戻るのが嫌に思えたほどだった。学生や指導していた大学院生に再会することは楽しみにしていたが、国際社会、特にアジア太平洋地域における著しい変化は大学内では感じられない。大学は社会と離れており、ほとんど関係を持っていなかった。研究はするが、関わらないという感じだった。
知的な刺激に富む海兵隊の司令部では士気が高く、やる気にあふれていたのに対して、大学の職員や教員の士気が低いことを感じた。毎日のように、大学そのもの、職員・教員、理事、学生、部活監督などの不祥事が報道され、困った組織になっていた。
ハワイから戻った数カ月後のこと。社会の荷物ではなく、社会の先頭に立つ大学をつくりたいという思い、そして、社会とつながりがあり、生き生きとした教育環境を目指したいという内容を含んだ具体的な大学改革案を当時の研究科長に提出した。
ところが、その翌日、「却下」されたとのメールが届いた。却下の理由は書かれておらず、審議や説明する機会もなかった。知人である総長にも相談してみたが、大学改革が必要という前提さえも理解されず、話をしても無駄だった。
面白いことに、その大学は、私が提示していた改革案の一部を17年度から導入した。提案から10年余り遅れていた。その間、私を含め、多くの若手の教員は抜けてしまった。私自身は、09年9月に海兵隊へ完全に転職した。
しかし、海兵隊の幹部として仕事をしながら、大学改革の在り方について提言し続け、ついに今月10日、晃洋書房より『教育不況からの脱出』を出版する運びとなった。
この本は、大学のみならず、社会がどのようにより良い人材をつくっていくのか、互いに貢献や連携できるのか、を論じるものだ。現在の学生や、将来学生になる子供を持つ親や保護者をはじめ、教育者、経営者、政治家、官僚、自衛隊、NPOやNGOに携わる人々に読んでもらいたい。
この本では、「日本の沈滞はいつまで続くのか」と題する前書きで、日本との出会い、自信を失った日本、日本再生への具体的ビジョンを語っている。
第1章「社会の中心としての大学」では、日本の大学の問題点や筆者が提示する日本型クォーター制度(4学期制度)の概要を紹介。第2章は、このクォーター制と他の制度の比較を行う。高等教育が高く評価されているアメリカでは、有名な大学の多くがクォーター制を採用しており、学生や教員の評価も高い。
第3章は、日本の会計年度や文化的な行事などを配慮し、筆者が名付けた日本型クォーター制(JQS)の導入について具体的に説明し、その利点を詳しく紹介している。第4章「研究と教育の両立と社会貢献」、第5章「スキルの向上・探究活動」、第6章「柔軟な学び方・豊な大学生活」、第7章「社会のニーズに応える拠点」と続く。第8章「社会の活性化につながる大学改革」は、大学と社会のあるべき姿や学生、職員、教員そして一般社会の方々がどのようなメリットを得られるのかを詳述している。
第9章「大学改革によるソフト・パワーの強化」は、日本の国際社会における立ち位置をより強めるために、より良い研究と発信できる大学をつくり替えると訴えている。つまり、日本の再生は大学次第なのだ。
再起動する絶好の機会
コロナウイルス禍はあらゆる面で世界中を「リセット」させた。日本の大学も再起動する絶好の機会だ。このチャンスを逃してはいけない。