金塊確保失敗も政権揺るがず ベネズエラ大統領
ベネズエラの反米左派マドゥロ大統領と野党指導者のグアイド国会議長が、ロンドンを舞台として首脳としての正統性と金塊をめぐる法廷戦を繰り広げた。
結果として、マドゥロ政権は2000億円相当の金塊の所有権を失った。ただ、マドゥロ政権は、中露やキューバに加えて産油国イランとの連携を強め、軍部の掌握にも成功しているもようだ。(サンパウロ・綾村 悟)
中露・イランと連携強化
正念場の野党指導者グアイド氏
ベネズエラの検察当局は3日、グアイド国会議長が独自に任命したベネズエラ中央銀行の一時取締役や駐ロンドンの暫定政権大使に対して、反逆罪などの容疑で逮捕状を請求した。英国の高等裁判所が2日、ベネズエラの正統な大統領をグアイド氏だと判断したことに対する報復行為だ。
ベネズエラは、英国の中央銀行であるイングランド銀行に、国外に保有する外貨総額の4分の1に相当する19億㌦(約2000億円)相当の金塊を預けている。深刻な財政・外貨不足に悩まされているマドゥロ政権は、「新型コロナウイルス対策に必要」と称して、イングランド銀行に金塊の引き渡しを求めてきた。
これに対し、グアイド氏は、金塊が新型コロナ対策ではなく、マドゥロ政権の安定化に利用される可能性が高いと判断し、金塊の所有権はマドゥロ政権にはないと訴えた。
イングランド銀行が英国司法に判断を求めた結果、高等裁判所がグアイド氏をベネズエラの正統な首脳として認めたわけだ。
ベネズエラは現在、中露やキューバが支援するマドゥロ政権と、欧米や日本など世界50カ国が認めるグアイド暫定政権がそれぞれ正統性を主張している。
マドゥロ大統領とグアイド暫定大統領による政治衝突は、2018年5月に実施された大統領選が直接の原因だ。当初、大統領選は同年12月に予定されていたが、選挙評議会(CNE)が急遽(きゅうきょ)、5月への前倒しを発表。さらに、選挙裁判所が主立った野党指導者に対して出馬禁止を命じたことで、野党陣営の選挙対策が遅れ、マドゥロ氏が再選を決めた。
独裁化が進むベネズエラでは、最高裁などがマドゥロ派で占められ、17年には、マドゥロ政権を批判した当時の検事総長が公職を追放された。
この選挙結果に、欧米各国やブラジルなど南米の主要国は反発。19年1月にグアイド氏が暫定大統領への就任を発表し、マドゥロ氏の即時退陣と民主的選挙の即時実施を求め続けてきた。
マドゥロ政権は現在、米国などから厳しい経済制裁を受けており、凍結された海外資産も多い。今回の英国の裁判所決定は、マドゥロ政権にとって大きな痛手だ。
ただ、マドゥロ政権は、中国やロシアから軍事・経済の両面で支援を受けており、特に政権の要となる軍部の掌握には成功しているとの見方が強い。昨年5月にグアイド氏が軍部の支援を求めて起こしたクーデターも未遂に終わっており、結果としてマドゥロ政権の軍部掌握が進んだ。
一方、ベネズエラは世界最大の原油埋蔵量を誇る主要産油国だが、産油・精製施設に対する投資不足や国営石油公社内での腐敗などが続き、原油・石油生産が停滞。米国による制裁の影響もあって、産油国でありながら深刻なガソリン不足に陥っている。
こうした中、ベネズエラに助け舟を出したのが、同じく米国から経済制裁を受けているイランだ。イランはここ数カ月、ガソリンを満載したタンカーを何隻もベネズエラに送っているだけでなく、新型コロナの検査キットなど支援物資の援助にも積極的だ。
今年12月に国会議員選挙が実施される。マドゥロ政権は、与党側に有利な条件で選挙を進めることで過半数獲得を狙っている。野党側はボイコットの姿勢を示しているが、国内の政治状況は与党有利に働いており、野党とグアイド氏にとって正念場となっている。