新型コロナ対策への取り組み
元統幕議長 杉山 蕃
月別の回復計画立案せよ
示すべき国挙げての努力目標
新型コロナ感染症に対応している医療関係者への感謝の気持ちを表明し、さらなる努力を激励するため、航空自衛隊ブルーインパルスが白煙を引いて東京上空を飛行した様が放映された。その他、欧州に見習って高層ビルのライトニングにも工夫を凝らしているようである。まずは結構なことと考えているが、簡単に歓声を上げるわけにはいかない複雑な気持ちも強い。それは、現行の制度下、現場で従事する関係者には、心からその労を労(ねぎら)うものであるが、医療行政の在り方に対し、大いに疑問を持っているからである。
少な過ぎるPCR検査
疑問の焦点は、前回も指摘したが「PCR検査数」を依然として公表しない不透明な対応にある。日日の新規感染者数のみ公表し、「減った」「増えた」のイメージを国民に植え付けているが、これは恐ろしく根拠のない事象である。少なくとも「PCR検査数」を公表し「検査数何人、うち何人が新たな感染者」と言うべきである。
先日、プロ野球巨人軍の主力選手が開幕を目前に陽性と判定されたことが発表された。本人たちは何の症状もなく「意外な判定」を受けたものの、短期間に陰性化し復帰したようである。この例を見ても発熱等のない「当局がPCR検査の必要性を認めず感染している」階層は若人を中心にかなり存在することが容易に推察できる。すなわち「PCR検査数」を増やせば当然、新感染者数が増えていくのであろう。
前回、欧米諸国に比しPCR検査数が屈辱的に少ない我が国の検査体制の不具合を指摘した。最近、検査体制の改善が報道されるようになり、結構なことと考えているが、内容的にはお粗末であり、改善に大いなる努力が必要である。西村担当大臣が検査数に関し言及し、態勢が改善されてきたこと、1日当たりの検査可能数が1万4000人態勢になったが、感染者の受け入れ能力、検査従事者数等の関係で8000人程度にとどまっていることを公表した(NHK)。
西村大臣は、おそらく自民党の主軸としてその将来が期待される逸材であるが、この公表内容は誠にいただけない。1日1万人程度の検査数でどうするつもりなのか、率直に言って理解に苦しむ。この程度の検査数では1年経っても365万人、3000万人検査するには10年近くかかる計算である。これはあまりに悠長な数字ではないだろうか。
同時に放映されたドイツのPCR検査態勢は1日20万人、自動検査装置を完成させている様子が印象的であった。各国は、新規感染者数の予想数と、1人当たりの濃厚接触者を基礎数値とし、これらに応じ得るPCR検査体制を取っており、ドイツの場合、我が国の14倍の能力を持つという。米国では30倍、英仏も10倍である。新規感染者数は我が国は確かに1桁少ないのであるが、検査数自体が1桁以上少ないのであるから、威張れた数値ではない(数値は日経、NHK)。言うなれば、発症可能性の高い患者に絞って「モグラ叩(たた)き」的対応に追われているように見える。
ここで、我が国の取るべき短期計画の在り方について考えてみたい。当面の目標は「早期収束」は当然であるが、五輪開催、外国人訪日復活といった我が国内の健全性を早急に回復しなければならない事情を考えれば、ここ1年、月別の回復計画を立案し、国を挙げての努力目標を明示すべきではないだろうか。
少なくとも年内には、列国並みの検査実績と、相次いで開発されるであろう予防薬・治療薬との総合効果で、開催国にふさわしい収束状態とし、半年後には自信を持って五輪を開催できる意気込みを示すべき時期に来ている。国会閉会も結構だが、感染症対策に関しては、既に医療行政の領域を越え、政治が明確な国家目標を示し、国民の協力を得て主導すべき時期であることを認識すべきなのである。
政治・行政・民意結集を
国会では補正予算の予備費10兆円が議論になった。何とも政争の醜さを曝(さら)け出している感がするが、大規模な資金投入を前提に、半年後、1年後の目標を明確にし、世界中のアスリート、観客が安心して訪日を楽しめるよう早急なる感染症収束目標を掲げ、政治、行政そして民意を結集したいものである。
(すぎやま・しげる)