鄭義溶と徐薫と“愛国者”ボルトン


韓国紙セゲイルボ

回顧録で明らかになる参謀不在

 米大統領府安全保障補佐官だったジョン・ボルトンの「回顧録」には米国と日本、韓国が北朝鮮問題についてそれぞれ願う議題を設定して目標達成のために奮闘した熾烈(しれつ)な角逐戦が赤裸々に描写されている。

 回顧録はまた、韓半島の“運転者”と“仲裁者”の役割を強調した韓国政府が北朝鮮・米国の双方に正直だったのかとの質問を投げ掛けている。

ボルトン前米大統領補佐官2月17日ノースカロライナ州ダーラム(AFP時)

ボルトン前米大統領補佐官2月17日ノースカロライナ州ダーラム(AFP時)

 米国が願う北朝鮮の非核化は「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」であり、今もそうであり今後もそのはずだ。鄭義溶(チョンウィヨン)大統領府国家安保室長と徐薫(ソフン)国家情報院長が文在寅大統領の特使として平壌を訪問し、金正恩党委員長と会って帰国した後、米国に伝えた北朝鮮の「完全な非核化」はこのCVIDを意味したものだったのだろうか。

 トランプ大統領に朝米首脳会談を提案したのは鄭室長であったというのがボルトンの主張で、この部分に対して大統領府は詳しい説明を避けている。朝米首脳間の会合前の5月24日、双方が昼と夜の時差を置いて出した立場はボルトンの主張が正しいことをうかがわせる。

 トランプ大統領は公開書簡で、「われわれは今回の首脳会談が北朝鮮の要請により進められていると理解している」と述べ、北朝鮮は崔善姫(チェソンヒ)外務第一次官の談話で、「彼ら(米国)が先に対話を頼み込んで来たのに、あたかもわれわれが会談を要請したように世論を誤導している」として不快感を表した。

 韓国政府に向けて露骨な不満と不信を表したボルトン回顧録と、韓国に対する暴言・下品な言葉・軍事的挑発の脅しを浴びせ掛けた北朝鮮の態度をみると、仲裁者(韓国)に騙(だま)されたことに対する腹いせではないのかと疑わせる。

 “ノーディル”に終わった2019年朝米ハノイ会談当時、トランプ大統領がボルトンに、「スモールディールと(会談場から)出ていくことのうち、どちらがより記事の種になるか」と尋ねたというエピソードは、北核問題を扱うトランプ大統領の誠意がなく単純な態度を表している。

 ボルトンはCVID以外の北核交渉へのアプローチは米国の安保利益に反すると考えたので、それを防ぐために大統領を説得し、他の参謀らと協力したり、あらゆる手段を動員して妨害工作を繰り広げて、志(ノーディール)を成し遂げた。

 韓国政府にとっては非常に意地悪な人物だが、米国の立場では国益を最優先視した愛国者であった。韓国には“ボルトン”のような参謀がいるのか。

(キム・ミンソ国際部記者、6月30日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

大統領に直言できる人材得る困難

 ボルトン回顧録は韓国に衝撃を与えている。表向き文在寅政権は平静を装っているが、米朝間を取り持ちながら、双方に都合のいいことを言っていた交渉の内幕を暴露されて、面目は丸つぶれだ。今後いかなる“仲介”役も回ってこないだろう。

 それにしても、半ば嘘(うそ)をついて、言葉が過ぎるなら、誤解を誘ってでも、米朝首脳を会わせようとした文政府の狙いは何だったのだろうか。2018年6月のシンガポール会談後、思ったように米朝交渉は進まなかった。

 それはそうだ。もともと、北朝鮮には「完全非核化」など念頭になく、金正恩党委員長は自分との面会という「プラチナチケット」だけで、制裁解除と経済支援を得ようと都合のいいことを考えていたからだ。そんな目論見(もくろみ)が米政府に通用するはずがない。

 これでは埒(らち)が明かないと、韓国は「非核化の振りだけでもしてほしい」と北に知恵を付け、翌年2月ハノイ会談が行われた。しかし、この会談がほとんど意味がなく、したがって何の成果も得られないことはキム記者を含む同行の韓国記者たちですら、分かっていたことだった。

 さて、記事ではボルトンのように、国益のために大統領に直言ができる「参謀」が韓国にも必要だとしている。だがよく考えてほしい。文政権の中身は、かつて言われた「安倍お友達内閣」以上に、イデオロギーでこり固まった“同志”によって構成されている。同じ対北融和政策、対北支援推進を「国益」と考えている者同士が別の道を直言できるはずがない。

(岩崎 哲)