巨大コンクリートで国土脆弱化

東京財団政策研究所上席研究員 小松 正之

自然の力活用し防災を
環境保護と社会経済性向上も

小松 正之

東京財団政策研究所上席研究員 小松 正之

 日本は、自然に対して脆弱(ぜいじゃく)性をさらけ出した国土になった。また単一目的の防災で、環境、社会経済への考慮を忘れた。沿岸線は埋め立てやコンクリートで固められ、沿岸域の海洋生態系は相当部分が破壊された。「国土強靭(きょうじん)化計画」と政府は呼ぶが、地方の活力、経済と社会の衰退が示すように、明らかにこの目的に反している。地球温暖化は日本だけの事象ではない。しかし日本でとりわけ大きい災害が発生した。また、サケもサンマもスルメイカも獲れないのはどうして日本だけか。米国やロシアではサケは豊漁である。

自然の脅威忘れた人間

 2011年の東日本大震災・津波では死者・行方不明者は1万8429人(19年7月時点)であるが、埋め立て地での生活・居住の死者・行方不明者は約半数に達する。もともと海だったところに堤防を築いて居住・生活し、人間は自然の脅威を忘れた。

 さらに11年の東日本大震災後の堤防は、総延長が400㌔にわたり(陸前高田市の場合、高さが12・5㍍)建設された。

 100年に1度の津波を防ぐといわれるが、東日本大震災級の津波は決して防げない。1960年3月のチリ地震津波を防ぐ目的で造られた大船渡や釜石の湾口防波堤もあえなく崩壊した。逃げるのに時間(何分稼いだのか)を稼いだというが、堤防があるためにどれだけの人が判断を誤ったか。

 津波が来たら高台に逃げることを教えられた。陸前高田市では人口比に対して7・8%(商業地の高田町ではさらに高い)が残念ながら落命した。防災の第一は、まず自然の脅威を理解することである。自然の摂理をコントロールしようと河川堤防や防災ダムを建設し、海岸を埋め立て、堤防を建設したことが、結果的に自然災害の被害の増大につながったとみることができる。

 19年の台風による河川堤防の決壊で、住居が破壊され尊い人命が失われた。千曲川、多摩川、阿武隈川や宮城県の吉田川で被害を受けた所は、もともと河川の氾濫原(はんらんげん)であった。そこに堤防を造り、自然の摂理に反して河川に寄り沿って都市や集落を形成した。

 自然から、人工物で身を守れると過信した。結局その過信が被害を増大させ、生活基盤を喪失させた。しかし、行政の関係者は、住民はさらに巨大な河川堤防の建設を望んでいると口にする。原因は温暖化よりは河川が氾濫原と切り離されたことだと欧州環境局は分析する。

 欧州環境局は50年で河川水害は5倍に増加すると予測する。大きな堤防を造っても、巨大化する水害は堤防の弱いところを決壊させる。従って自然の氾濫原や湿地帯を増やし、大水を吸収・保有する方向である。米国も自然活用エンジニアリング(EWN)にかじを切った。母なる自然の力を活用して、防災の単一目的ではなく、環境保護と社会経済性の向上も同時に目指す。また、欧州にある国連食糧農業機関(FAO)など国際機関も自然に基づいた解決策を標榜(ひょうぼう)したプロジェクト(グリーンプロジェクト)を実施中である。

 その中で日本は世界からは相当遅れている。しかし一方で国民はコンクリート事業(グレープロジェクト)に飽き飽きしている。漁業者、一般住民、マスコミももうコンクリートの時代ではないと考える人が増えている。

被災地にビオトープを

 このような状況で、米国の陸と海の生態系の研究機関であるスミソニアン環境研究所の専門家一行が、2月に震災被災地を訪問する予定だ。陸前高田の堤防の内側にあり、コンクリートと捨て石(リップラップ)で固められ、生物生息環境としては貧弱になった古川沼に、自然の力を活用した湿地帯(ビオトープ)を造成し、水生植物や動物、魚介類、水鳥を復活させて、研究と観察、さらには市民憩いの場や観光の拠点としたいとの意向を持っている。

 このような考えが実現すれば、世界の先端を行く米国チェサピーク湾にある科学研究機関との連携としては、本邦初の試みであり、学ぶものと得られるものは多い。被災地の復興に新しい一石を投じるものとなろう。

(こまつ・まさゆき)