「“直す”指導から“育てる”指導への移行」をテーマに
民間団体「北海道師範塾」が冬季講座を札幌で開催
教師による生徒への体罰や教師同士のいじめが話題になる昨今、あるべき教師の姿を追求し、さらに子供に寄り添う教師を育てることを目的とする民間団体「北海道師範塾」の冬季講座がこのほど札幌で開催された。新人教師の実践発表、ベテラン教師による指導助言など教師の心構えや学級運営といった現場に即したテーマが議論された。(札幌支局・湯朝 肇)
あるべき教師の姿を追求、共感呼ぶ若手教師の実践発表
「3年前に初めて学級担任を担当し、紆余(うよ)曲折を経ながらも今年春に3年生が巣立っていくと思うと感慨深いものがあります」――こう語るのは、北海道函館水産高校で教鞭(きょうべん)を執っている浦崎菜摘さん。今年の1月4、5日の2日間、札幌市内のホテルで開かれた北海道師範塾(会長、吉田洋一元北海道教育長)主催の冬季講座で同教諭は、「“直す”指導から“育てる”指導に移行するための基盤づくり」をテーマにした実践発表を行った。
その中で「つくりたかった学級は生徒たちにとって居心地のよい教室であること。この3年間を通してそうした学級をほぼつくることができました」と語る。
ここでいう「居心地のよい教室」とは、決して生徒たちが単に馴(な)れ合いで緊張感のない“ぬるま湯”的な空間をつくることではなかった。「(生徒たちが)自身にはなかったり、不足していたりする物の見方、考え方や技術などを補充し合える人間関係を築かせたい」「生徒一人ひとりに向上心を持たせたい」という思いをもって浦崎教諭は幾つかの言動を徹底させた。
すなわち、①日常での礼儀・あいさつの徹底②生徒に教室のゴミを拾わせるなど教室環境の整備③集団としてのまとまりを持たせる④考査(テスト)前の勉強法の確立の補助⑤保護者の対応――などを柱として、およそ30以上の項目をチェックして指導に当たったという。「学級担当となって最初の1年間は繰り返し何度も指導しました。出席簿に学級の状況を共有する付箋を貼ることで、担任の目が届いていない時も指導が徹底するよう各教科担任の先生方にも協力していただいた」という念の入れよう。
その甲斐(かい)あって、現在の学級は「クラスの中で固定されたグループ化がなされずに、入れ代わり立ち代わり、さまざまな級友と談笑する穏やかな姿が見受けられたり、互いに注意し合うことができるようになったりしたため、諭す指導はほぼ行われなくなっている」状態までになったという。
函館水産高校は函館市に隣接した北斗市にあり、海洋技術科や品質管理流通科など4科を持つ専門高等学校である。同校は学級編成替えなしで担任は持ち上がりで3年間担当するのが慣例となっている。実は、浦崎さんは3年前にも北海道師範塾の冬季講座で実践発表を行っている。その時は、担任になって1年目で、学級指導の様子について、「教師になって水産高校という専門高校への赴任を命じられ、2年目でいきなり担任を任された。学級はほぼ男子で馴れ馴れしい。先生である私を『なっチャン』などと呼んでくる。友達じゃあるまいし非常に腹立たしい。生徒は自己主張が激しく、自尊心が低い。ボランティア精神が低い上に自分のことは棚に上げて他者には批判的で悪口を言う。こういう生徒をどう教育したらいいのだろうか。とにかくめげずに頑張っていきたい」と指導の苦しさを吐露していた。
当時の実践発表を聞いていたあるベテラン教師は「浦崎さんの大変さが伝わってきて、教師を辞めるのではないかと心配してしまったほど。いろいろな苦労を越えて頑張っていると感じる」と話す。また、今回の実践発表を聞いていた札幌新川高校の及川遥香教諭は「後輩教師をして浦崎先生の粘り強い指導と決めたことに対してはぶれない姿勢を学びたい」と感想を述べる。
北海道師範塾の設立は平成22年9月。北海道内の現役教師や大学教授らが集まり、教師を目指す学生や若者たちの夢を実現するための教師養成講座を毎年、ボランティアで開催している。また、夏・冬休みを利用して定期講座を開き今回で19回目。基調講演として北海道大学大学院教育学研究院の篠原岳司准教授を講師として招いた。また実践発表では浦崎教諭の他に北海道札幌養護学校の荻野志穂教諭、北海道雨竜高等養護学校の御家瀬豪教諭が報告し、それぞれの取り組みを披露した。冬季講座は正月明けの2日間行われ、この日も全道から50人以上が集まり、教育への研鑽(けんさん)を積んだ。