露亡命中のスノーデン氏の近況

ロシア研究家 乾 一宇

結婚し国内で自由に行動
ロシアは当面保護を継続へ

乾 一宇

ロシア研究家 乾 一宇

 エドワード・スノーデン元米中央情報局(CIA)職員(36)が、2013年にロシアに亡命してから6年が経(た)った。亡命前後の事情を本欄に「露国亡命後のスノーデン氏」(14年10月6日付)として寄稿した。

 彼より1年前の12年に、内部告発サイト・ウィキリークス創設者ジュリアン・アサンジ氏が在英エクアドル大使館に亡命していたが、エクアドル大統領の交代により、本年4月、新大統領が亡命受け入れを撤回、英警察に逮捕された。スノーデン氏も、亡命先をエクアドルに決めていた。だが、米国旅券の無効により、経由地ロシアで亡命する羽目になった。

 内部告発とエクアドルという共通項からアサンジ氏との関係をも絡め述べていきたい。

「国家への裏切り者」か

 スノーデン氏と交際していたリンゼイ・ミルスさんがモスクワを訪問、17年に結婚している。この年の1月、居住許可の期限が20年まで延長された。ロシア国内を自由に行動でき、望めば国外への渡航も許可されている。

 スノーデン氏は隠れ家に住み、外出は控えていたようである。結婚後は、妻リンゼイさんの意見を受け入れ、市内に出ており、ときにはボリショイ劇場やトレチャコフ美術館に足を伸ばしたり、あるいは国内旅行をしたりもしているようだ。

 亡命当時から、外国の新聞やテレビに積極的に顔を出している。また、遠隔中継を通じ、世界各地と接触、「国家安全保障局(NSA)監視の実態や民主主義の危機的影響」を訴えている。最近では9月に、回想録『独白 消せない記録』を20カ国で出版した。

 前稿で触れたが、亡命時金銭面も含め支援をしてくれたウィキリークスやアサンジ氏との関係には微妙なものがある。ちなみに、ウィキリークスには機密情報を流していない。

 ウィキリークスは、西側メディアに機密文書のスクープを流している。しかも、アサンジ氏は機密文書をほとんどそのまま、氏名を含めた内容を加工もせず渡している。

 スノーデン氏は、NSAの不法な情報収集を非難するが、機密情報の公開に当たってはマスコミを介し(フィルターがかかる)、またその内容を選別、個人情報や固有名詞など、個人の生死につながるようなことには配慮している。

 国家への裏切り者か、内部告発した英雄かの論議がある。

 アサンジ氏は、国家の中の一員としての行動は取っておらず、裏切り者には該当しない。彼はロシアや中国に不利な情報は出しておらず、告発の観点からは反米が鮮明である。彼は、情報を恣意(しい)的に選別、一般的にいう内部告発者とも言えない。

 スノーデン氏は、国家への裏切り者とアメリカでは捉えられている。9・11事件で、真珠湾攻撃に次いで、米国は2度目の本土攻撃を受けた。米当局は、外国だけでなく、国内の通信をトロール魚船の網のように全てを収集し、アメリカをテロ攻撃から守ることは必要悪だと考える。「通信の秘密」「プライバシーの権利」よりも社会の安定や安全を優先している。この観点からは、彼はまさしく裏切り者である。オバマ大統領(当時)でさえ、彼は法の裁きを受けるべきだとし、1100万人の署名嘆願書(13年秋)があっても、恩赦の対象にしていない。

利用するが信用はせず

 プーチン・ロシア大統領は、ソ連国家保安委員会(KGB)出身であり、裏切り者については非常に厳しい考えを持っている。もちろん、利用できる者は徹底的に利用するだろうが、裏切った者に対して信用はしていないだろう。

 アサンジ氏は、エクアドルの大統領が交代して、逮捕の憂き目に遭った。それを知ってかスノーデン氏も10月の米国コメンテーターとのインタビューで「3年ごと更新の居住権をロシア当局が延長しない可能性もあるとの見方を示し」ている。

 プーチン大統領は、米国の対露姿勢から、ここしばらくは籠の鳥を保護するものと考える。

(いぬい・いちう)