ナイジェリアの少女たちの悲劇

山田 寛

テロとの闘いに本腰を

 米国のシリア攻撃、北朝鮮抑止、米露対立など国際安全保障情勢が激しく動く一方、西欧、ロシア、エジプトなど各地からテロのニュースも相次ぐ。

 ウィキペディアによれば、今年1月~4月上旬の100日間に、世界で429件のテロが起きた(昨年同期は323件)。大半は中東、アフリカなどの地域で、ワースト1のイラクが55件、次いでアフガニスタンとナイジェリアが各33件だ。

 その中で、IS(イスラム国)の弟分で、ナイジェリアを本拠とする集団「ボコハラム」(「西洋の教育は悪」の意)のテロを取り上げたい。卑劣、悲惨、女性特に少女への蛮行の代表例だからである。

 ボコハラムは、同国北部で過去7年間に2万人を殺害、260万人を避難民にしたが、特に世界を驚かせたのは、3年前の4月14日、公立高校を襲い16~18歳の女子生徒276人を拉致した事件だった。

 直後に逃げ出せた57人、昨年10月に政府軍が拘留中のボコハラム兵との交換で解放された21人、別々に救出された2人などを引いても、200人近くが拉致されたままだ。

 少女たちの運命は、二つの点から強く懸念されている。第1に、「性奴隷」にされている懸念。彼らは他にも多数の少女、女性を拉致しているが、一昨年4月ごろ政府軍に救出された234人のうち実に214人が妊娠中だった。前記の別々救出の女子生徒2人も、赤ちゃんを抱えていた。

 女子教育を敵視する集団にとって、高校生を性奴隷に変える意義は大きいのだろう。

 さらに問題は第2である。同集団の十八番(おはこ)は、性奴隷にしながら洗脳し、自爆テロ犯にも使用することだ。幼女には、「やらなければ殺す」と脅して自爆させる。

 一昨年末には、12~18歳の少女14人による大集団の同時多発自爆テロで、111人を死傷させた。

 最近でも、昨年12月、彼らの本拠地、サンビナの森に近い都市、マイドゥグリで、7~8歳の少女2人の自爆で19人を負傷させた。大晦日(おおみそか)には、10歳ぐらいの少女が自爆したが、爆発が早すぎ、市民1人が負傷しただけだった。同じころ、別の女性が自爆未遂でつかまり、群衆からリンチを受けた。

 今年1月、少女ではないが、7歳の男の子が同市の大学で教授など5人を死亡させた。先月半ば、同市郊外で10代の少女4人が6人を死亡、16人を負傷させた。

 昨年末、政府は、サンビナの森から彼らを追い出した、と発表した。でも自爆テロは止まない。少女は失敗も少なくないが、低コストの“消耗品”なのだろう。

 森から追われても、彼らはアメーバのように近隣諸国にも伸長している。ナイジェリア北部は飢餓地帯と化し、国連は、今年同地域の5歳以下の子供のうち9万人もの死者が出る可能性があると心配している。

 日本のコップの中の国会論戦の焦点も、森友とアッキー(首相夫人)からテロ等準備罪創設の法改正案へと移るようだが、反対派は、戦前の治安維持法になぞらえ、「一般市民も共謀罪の対象にされかねない」と主張している。だが、団体でも個人でも、テロ関係者と一般市民の完全な分別などできるだろうか。

 私は最近、イラン出身で在仏の著名な社会学者、ファラッド・コスロカヴァール氏の著書を共訳したが、同氏も慈善団体や人権NGOが、イスラム過激派テロ集団の資金調達のカバーに使われていると指摘している。

 必要な法改正をし、世界のテロとの闘いに本腰を入れて加わり、アフリカや中東の被害者たちへの共感と支援も一層強めるべきだと思われる。

(元嘉悦大学教授)