オバマ米国と平和賞の呪縛 南シナ海対決で解けるか
今年のノーベル平和賞は、「アラブの春」の民主化と過激派テロが同居する国チュニジアで、国内対話を進め、民主化を守ってきた4団体、「国民対話カルテット」の受賞が決まった。地域の民主化運動全体への波及効果が期待される。
ノーベル平和賞の効果といえば、2009年のオバマ米大統領の受賞のことを考えてしまう。受賞がむしろオバマ外交を縛り、世界にマイナスになったのではないだろうか。昨年の米国内世論調査でも、55%が「オバマ氏は平和賞に値しない」と答えた。受賞が世界の平和へのインパクトを持てないことへの不満がある。
オバマ米国はようやく今週、南シナ海に軍艦を送り、中国の無法を看過しない態度を示した。この海での中国の傍若無人の領土拡大作戦の手始めは、1974年のパラセル(西沙)諸島を巡る、当時の南ベトナム軍との戦闘だった。サイゴンでフォローした私は、軍艦艇14隻を繰り出し、瞬く間に島を占領した中国の目茶目茶(めちゃめちゃ)強硬さに驚いた。
オバマ大統領は、今回そんな強硬中国との綱引き対決に踏み切ったが、今まではどこでも、「引きこもり平和・慎重外交」を続けてきた。だから、尻に火が付く状況に追い込まれた。
最近も、中東などからこんなニュース、情報が届く。9月末、アサド政権支援のシリア領内空爆を開始し、軍事介入を強化したロシアは、政治解決にも主役として関わる意欲を示した。
ロシア、イラク、シリア、イラン4カ国は、超過激組織ISに対する安全保障情報協定を結び、情報共有センターが近くバグダッドに設置される。
イランは中東問題解決のため、中国の協力強化を求め、即OKを得た。中国軍艦がシリアに向かったともいう。
中国は、国連PKO待機部隊設立のため主導的役割を担い、8000人の部隊を派遣する方針も表明した。要するに、米国を脇に、ロシア、中国の影がどんどん広がっている。
オバマ大統領は就任直後、「核のない世界」の理想を唱えて受賞した。だが、米露核削減新条約は結んだが、ロシアや中国の核の威嚇、核近代化・増強にブレーキをかけられない。理想の世界は一寸も近づいていない。そして、米国は世界の警察官役を放棄し、国防予算を削り、アフガン米軍撤退日程表などは急いで作った。
いきなり平和賞の心理的影響が、「平和大統領」の過剰意識と「引きこもり」性向を強めたのではないか。その結果、中東、ISからウクライナ、南シナ海まで、米国は後手に回り、中露の覇権主義意欲をかき立て、“新冷戦構造”造りを助長したのではないか。
平和賞選定、特に為政者や権力者(集団)への授賞は難しい。2012年に受賞した「統合と和解」の欧州連合(EU)は今、債務、難民危機で、統合のたがも含め大試練に直面している。
2011年の「内戦を終わらせた女たち」のサーリーフ・リベリア大統領。共同受賞者から、政権の腐敗を厳しく糾弾された。
2000年の「南北首脳会談・太陽政策」の金大中・韓国大統領。その後北朝鮮の核開発だけ進んだ。
1994年、「オスロ和平合意」のイスラエルのラビン首相、ペレス外相と、PLOのアラファト議長。合意内容は依然絵に描いた餅だ。
1974年、「平和裏に沖縄返還を実現」した佐藤栄作元首相。今や現地では琉球独立論すら聞かれる。
皆受賞後は厳しい。オバマ大統領には、南シナ海の対決を機に「積極的平和主義」に転じてほしい、と思う。
(元嘉悦大学教授)












