香港選挙制度変更 民主主義を踏みにじる暴挙だ
中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が、香港の民主派を排除する選挙制度の変更方針を採択した。親中派で構成される「選挙委員会」に巨大な権限が付与され、民主派は選挙への立候補自体が困難となる見通しだ。
香港の高度な自治を認めた「一国二制度」を骨抜きにし、自由と民主主義を踏みにじる暴挙である。中国共産党政権の強権的手法は断じて容認できない。
「愛国者」以外は出馬禁止
方針の内容は、香港政府トップの行政長官を選ぶ選挙委員を現状の1200人から1500人に、立法会(議会)定数を70から90に増やし、親中派のための議席枠を大幅に拡大するというものだ。選挙への立候補をめぐっては、新たに設けられる「資格審査委員会」が候補者を選別し、当局が認める「愛国者」以外は出馬を禁じられる。
中国の李克強首相が「一国二制度が穏やかに長きにわたり続くようにするためのものだ」と述べたことには唖然とさせられる。形ばかりの選挙制度でごまかせると思っているのか。中国が目指しているのは、一国二制度の死文化以外の何物でもない。日本は香港民主派と連帯し、中国を糾弾すべきだ。
香港の選挙制度はもともと親中派に有利にできていた。とはいえ、これまでは立法会が一定の役割を果たしてきたことも事実である。2015年6月には、17年の行政長官選をめぐる普通選挙改革法案が民主派議員らの反対で廃案となった。
法案は中国側の決定に基づいて香港政府が提出。有権者が1人1票の投票権を持つ普通選挙を導入しようとしたが、選挙委が民主派候補を排除する仕組みとなっていたため、民主派が「偽の普通選挙」と強く反発した。
昨年行われる予定だった立法会選で、民主派陣営は過半数を獲得した上で行政長官を辞任に追い込むことを目指した。香港政府が新型コロナウイルスの感染拡大を口実に延期したのは、親中派の苦戦が予想されたことで中国共産党政権が強い危機感を持ったことが背景にあろう。
しかし選挙制度が変更されれば、立法会は政府決定の追認機関となってしまう。昨年の全人代で導入が決まった国家安全維持法と共に、香港における民主派排除を加速させるものだ。こうした中国の身勝手な振る舞いを看過することはできない。
中国の習近平国家主席は18年の全人代で国家主席の任期制限を撤廃。長期政権を見据える中、国内では香港の一国二制度を形骸化させただけでなく、少数民族の独自の文化を否定する同化政策を進めている。
一方、国外では軍事力増強やシルクロード経済圏構想「一帯一路」で覇権拡大を目指し、最近では新型コロナの「ワクチン外交」も展開。台湾統一のためには武力行使も辞さない方針を明言するなど、その政策には目に余るものがある。
排除すべきは共産党独裁
中国は民主主義、人権、法の支配などの普遍的価値に背を向け、日本や米国などの関係諸国にとって大きな脅威となっている。排除すべきは香港民主派ではなく、中国の共産党一党独裁体制である。