米韓軍事演習 縮小を止め拡大する時だ
米韓両軍が朝鮮半島有事を想定した合同の軍事演習を韓国で実施中だ。北朝鮮との対話を重視した米国のトランプ前政権時に中断・縮小を余儀なくされた後、新型コロナウイルスの感染拡大などもあって昨年春は中止された。今回、春の演習としては2年ぶりで、バイデン政権発足後では初めてとなる。
演習は両軍が北朝鮮の核脅威を万全な態勢で抑止するためのもので、拡大強化が必要だ。
対北抑止力維持が目的
演習は反撃や先制攻撃の手順、米軍増援受け入れなどのコンピューターシミュレーションが中心だ。毎年この時期に実施してきた実戦形式の野外機動訓練は見送られた。
本来であれば、米新政権発足を機に実際に兵力を投入する野外機動訓練の実施が望ましかった。だが、韓国の文在寅政権が演習を可能な限り縮小しようとし、その意向を米国側に伝えたとの見方が出ている。
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は1月の党大会で、韓国に対し米国との軍事演習を中止するよう求めた。韓国の態度次第で再び「3年前の春の日」のような南北融和ムードに戻れると言及していた。
政権のレガシー(政治的遺産)作りや次期大統領選での左派再執権へ南北融和を復活させたい文氏が、演習縮小を米国に願い出たとしても不思議はない。
北朝鮮はここ数年の間に対米核攻撃の威力を誇示してきた。米本土を射程に入れる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の技術的精度を高めると同時に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発を進め、原子力潜水艦の建造にも意欲を示した。
一方、短距離弾道ミサイルの技術も向上させたとみられ、韓国に対する核を含む各種の攻撃能力も増強中だ。
演習はこうした差し迫る北朝鮮の軍事的脅威を抑止する能力の維持が最大の目的だ。米韓いずれの政権も政治的計算で規模を縮小したり、延期したりして済むものではない。特に今は警戒レベルを最大限に引き上げ、演習を頻繁に繰り返そうとするのが安全保障に責任を持つ者の考え方だろう。
残念ながら文政権下では、軍をはじめこうした考え方を尊重する人たちの意見が通らないようだ。安保体制が正常に機能していないようで憂慮される。
もう一つ今回の演習で懸念されるのは、それでも韓国が米国との演習に応じざるを得ない背景に、有事の際の作戦指揮権である戦時作戦統制権を米韓連合司令部から韓国軍に早期に移譲させたい思惑があることだ。
幸い韓国軍への移譲に向けた検証は、昨年に引き続き今回も実質見送られるという。文氏の任期中の移譲は事実上困難になった。早期移譲には韓国側の力量などからこれを不安視する声が絶えず、強引に移譲すれば対北抑止力の低下は必至だ。韓国保守派からは米国の韓国に対する信頼を損ねる行為だという懸念が上がっている。
危険な文大統領の発想
文氏は演習について「必要なら北と協議できる」と述べた。米韓同盟と北東アジア安保を揺るがす危険な発想にはただ驚愕(きょうがく)するほかない。