香港情勢、決して許されぬ「一国一制度」
香港では、高度な自治を保障した「一国二制度」が中国によって骨抜きにされ、自由と民主主義が踏みにじられる事態が続いている。
国際公約でもある一国二制度をないがしろにすることは決して許されない。
民主派53人の逮捕強行
香港警察は元立法会(議会)議員ら民主派53人を、国家安全維持法(国安法)の「国家政権転覆罪」を犯した疑いで逮捕した。国安法関連では最大規模の摘発で、米国人弁護士1人も逮捕された。
民主派は昨年9月に予定されていた立法会選挙に向け、候補者を絞り込んで共倒れを防ぐために7月に「予備選」を実施した。予備選は、立法会選で議席の過半数を獲得した上で政府予算案の否決を繰り返すことで、政府トップの行政長官を辞任に追い込むことを最終目標としていた。
これが国安法違反に当たるというのだ。政権打倒が目的とはいえ、予備選は民主的な手続きを踏んでいる。予備選に60万人以上が投票したことで中国の危機感が高まったようだが、これに政権転覆罪を適用して民主派を逮捕することは、民主主義国家ではあり得ない話である。
香港への統制を強化する国安法は昨年6月、中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会が立法会の審議なしに成立させた。中国当局の判断次第であらゆる反政府的な言動を取り締まることができる「中国式法治」を体現するものだ。国安法施行後は、民主派やメディアに対する締め付けが強まった。
一国二制度は1984年の英中共同声明に盛り込まれた国際公約である。中国はこの公約を反故(ほご)にし、主権や領土に関わる「核心的利益」と位置付ける香港に「一国一制度」を押し付けていると言っていい。
逮捕された53人中52人は既に保釈された。ただ香港の選挙管理当局は、今回の逮捕者について、今年の立法会選への立候補資格がないと判断する恐れがある。立法会が親中派議員で占められれば、香港における人権弾圧はさらに強まろう。
日本をはじめとする民主主義国家は、中国やその意を受ける香港政府の横暴な振る舞いを糾弾し続けなければならない。米国のトランプ政権は2019年11月、香港の自治と人権の擁護を目的とする「香港人権・民主主義法案」を成立させ、中国に圧力をかけている。バイデン次期政権にも同様の対中姿勢が求められる。
安倍晋三前首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想には、地域の安定や成長に向けて自由、法の支配などの価値観を浸透させる狙いがある。日米豪印など全世界の民主主義国家は、連携して構想を推進すべきだ。
自由を否定する共産主義
共産党一党独裁体制を堅持する中国では、チベット、新疆ウイグル、内モンゴルの各自治区でも、少数民族の人権が弾圧され、民族固有の文化が奪われようとしている。
自由を否定することが共産主義体制の本質である。日本は対中外交において、このことを肝に銘じる必要がある。