自民対中決議 習氏国賓来日中止要請は当然


 自民党が、香港に対して統制を強化する中国の「香港国家安全維持法」を非難する決議を採択し、延期されている習近平国家主席の国賓来日について中止することを要請した。

 国際社会は中国に対し、新型コロナウイルス対策の初動の遅れのほか昨今のさまざまな動きに警戒を募らせており、わが国にも沖縄県・尖閣諸島沖で中国公船が領海侵犯を繰り返すなど問題が目立つ。非難決議を政府は重く受け止めるべきだ。

抑制的な表現に修正

 自民党の「香港国家安全維持法の制定及び施行に対する非難決議」は同党外交部会がまとめ、香港統制強化など中国の動向に「国際社会からの自由、人権、民主主義の原則に対する重大な懸念が表明されている現状においては、党外交部会・外交調査会として習近平国家主席の国賓訪日について中止を要請せざるを得ない」と訴えた。

 原案では「中止を要請する」という文言だったが、親中派の二階俊博幹事長らの慎重意見を反映して、同党政務調査会・政調審議会で抑制的な表現に修正したという。二階氏は「外交は相手のあることだから慎重の上にも慎重に行動すべきものだ」と苦言を述べた。

 硬軟両様の懐の深い外交力は必要なことかもしれない。が、1984年の英中共同声明で約束された香港返還後の高度な自治を50年間認める「一国二制度」を事実上反故(ほご)にした暴挙であり、国際非難を浴びている中国に、このままでは歓迎できないとする意思を民主主義国として表明することは当然である。

 習氏の国賓来日は令和の御代を迎えた昨年、米国からトランプ大統領が国賓来日したのに続き、今夏の東京五輪・パラリンピック開催前を想定して春に予定されていた。平和の祭典に花を飾る祝賀ムードを前提としていたと言えよう。

 しかし、今年に入り中国湖北省武漢市で発生した新型コロナ感染が世界的流行(パンデミック)を引き起こし、国際社会が第2次世界大戦後経験したことがない困難に陥っている。

 その後の中国の行動は、米国が新型コロナ発生源だとする偽情報の吹聴とマスク外交、コロナ対策で集会・デモが禁止された香港での民主派運動家の摘発や国家安全維持法の制定などだ。またインド軍と国境衝突を起こし、中国に批判的なオーストラリアに対して大規模なサイバー攻撃をした疑いもある。

 欧州連合(EU)も中国への警戒感を増しており、コロナ感染に関する偽情報工作に対して欧州委員会が非難。香港国家安全維持法に対しても「EUは香港立法会や市民社会と意味ある事前協議なしに採択された同法に関し重大な懸念を何度も繰り返して言明する」などと非難する決議をした。米国は同法制定に対中制裁措置を取った。

甘い対中認識を改めよ

 習氏国賓来日の環境にないことは明らかだ。もとより米ソ冷戦時代だった1972年に田中角栄首相が日中国交正常化をして以来、自民党内に「日中友好」を礼賛した空気が残る。親中路線を党是とした公明党と共に与党内の甘い対中認識は改める必要があろう。