露の反射的制御戦略に対策を

 現在、トランプ米大統領を最も危惧させているのは、元連邦捜査局(FBI)長官のロバート・モラー特別検察官による捜査であろう。中露の構想である朝鮮半島の非核化、米中貿易摩擦の激化、プーチン政権が支援するシリアの化学兵器疑惑、英国での元ロシア情報員暗殺未遂事件よりもはるかに。

 モラー氏はトランプ政権とロシアの結託についての調査を行っている。トランプ氏の脅しにも屈しない海兵隊出身の高潔なモラー氏は、ロシアの米国大統領選挙への介入、トランプ氏のロシアビジネスでのマネーロンダリングに関与した疑い、同氏の司法妨害、加えて同氏の個人顧問弁護士であるマイケル・コーエン氏の事務所をFBIが捜索するなど、淡々と手法を発揮しているように見える。今年11月に控えた中間選挙までに米国民が正しい審判を下せる決定的な材料を打ち出せるだろうか。

 プーチン露大統領をかつては称賛したトランプ大統領だが、米国財務省は4月6日、ロシア政府関係者および新興財閥、その関係者計26個人と15団体を新たに制裁対象として特別指定国民(SDN)リストに追加した。

 ロシアの情報戦略の鍵は反射的制御だ。反射的制御(reflexive control)とは、ロシアの情報戦略の中枢をなす手法で、情報を利用して他人の意想を操る技術、つまりこちらにとって有利な判断を下すように仕向けるものだ。反射的制御は国家レベルの高度な情報操作であり、認識操作である。

 2016年にロシアが行った米大統領選挙介入はサイバー空間で行われたスパイ活動、すなわちサイバーエスピオナージどころの話ではない。米民主党全国委員会へのハッキングで盗まれたデータがセンセーショナルな語り口でネット上に公開され、その後ソーシャルメディアで増幅され、瞬く間にメディアを席巻した。報復を狙うトランプ陣営、あるいはトランプ氏個人が立ち向かうべきイシューだ。

 欧米諸国は1990年代半ばにインターネットが登場してから、労力を情報セキュリティーに費やし、サイバーコマンドやサイバー軍隊の整備にも拘(かか)わらず、警鐘を鳴らすことができなかった。米大統領選に介入したロシア政府お抱えのハッカーとして名高い「APT28」は、既に2016年の10年前、06年よりロシア政府と利害関係のあったチェチェンのジャーナリスト、ジョージア(当時はグルジア)政府、東欧の防衛武官を標的としていた。

 16年の本質的なポイントは一つの国家が他国の内政に干渉し、他国の政府の信用を傷つけようとしているところにある。

 かつて米国はすさまじい情報力を振るっていたが、現代の情報作戦を認識し、対処する態勢が欧米諸国には装備されていなかったことを示している。

 ロシアの手口である反射的制御から、ロシアは現代のIT(情報技術)の相互性や即時性を理解し、ITがもたらすリスクもチャンスもロシアが初めて認識していたのだ。

 反射的制御への策は、事実を追求する力、批判的な思考、真実を追求する勇気であろう。わが国にとっても喫緊の課題だ。