世界覇権狙う習近平新体制

 中国では今、ネット上で「後退」という言葉や、それを示唆する映像が削除されている。習近平国家主席への権力集中が進み、“赤い皇帝”と言われた毛沢東の独裁時代に戻るような政治状況にあることに、人民が「後退」という表現で反発したのだが、これを敏感に感じ取った当局が強権力発動に出たようだ。

 昨年秋の共産党大会で、習近平は次期指導者になるべき50歳代の若手幹部を政治局常務委員に登用しなかった。そればかりは、次期トップ後継者の一人といわれる重慶市書記の孫政才を昨年7月に汚職で逮捕し、訴追。そして今年3月の全人代では、「国家主席、副主席任期は2期10年を超えない」とする憲法79条の規定を変更し、制度上は、2023年以降の権力維持も可能にした。

 中国の“メディア”と言われる宣伝機関は「習近平は党の核心」という表現を使っていたが、今年になって「全党が擁護し、人民が愛戴する領袖(りょうしゅう)」などと毛沢東並みの表現に変えた。鄧小平を指した「改革開放の総設計師」や、江沢民、胡錦濤の「党と国家の最高領導人」程度では満足できなかったようだ。党大会での党規約に続き、憲法前文にも「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」という言葉を書き加えた。今後、個人崇拝を進め、毛沢東と同様に絶対権力の確保を目指すことは目に見えている。

 絶対権力で習は何を狙うのか。香港メディアは「習近平政権1期目に出されたスローガンは『中国の夢』だが、これは結局、習が皇帝になる夢だったのではないか」と書いている。歴史上の帝国皇帝のように、政治大国、経済大国、軍事大国化を狙っていることは間違いない。「一帯一路」という新シルクロード構想で中央アジアや東南アジア、インド洋諸国に拠点を設け、まず経済圏を広げた。そのあとは軍事的な影響力拡大を目指すのだろう。

 南シナ海での岩礁基地化で同海域を掌握し、続いて東シナ海で日本や台湾の安全を脅かしつつ、米国が支配する太平洋に進出する。太平洋分割統治の提案はすでに指導者の口から米側に伝えられている。北極海への海洋進出を通じて大西洋にも力を及ぼそうともしている。2030年前後に経済規模で米国を追い抜き、世界全体の経済に影響力を発揮できるようになれば、米国に代わって「覇権安定」の中心に座り、パックス・シニカの達成を宣言するのではあるまいか。

 こういうシナリオ通りに進んだら、習近平は最後に何を求めるのか。米ハーバード大学を卒業した一人娘習明沢は最近、習近平弁公室の職員(局長級)として働いていることが判明した。中国版SNS「微信」の中に「学習小組」というコラムがあり、「銘則」というペンネームで父親の仕事ぶりを発信している。習は、娘に政治的な経験を積ませて将来党幹部とし、後継者にするとのうわさも流れている。もし、習が終身政権どころか、北朝鮮並みに権力世襲の「習王朝」を目指しているとしたら、現代中国最大の悲劇である。(敬称略)