自衛隊違憲論争、9条論争に2項削除改憲を

 先月25日に開かれた自民党の党大会で、安倍首相は「いよいよ憲法改正に取り組む時が来た。憲法に自衛隊を明記し、違憲論争に終止符を打とうではないか。これこそが今を生きる政治家、自民党の責務だ」と、憲法9条改正に向けての強い決意で総裁演説の掉尾(ちょうび)を飾った。筆者はこれに何ら異論はない。自衛隊違憲論に終止符を打つことは大賛成である。

 しかし、この党大会に向けて自民党の憲法改正推進本部が打々発止の議論の末、苦心惨憺(さんたん)して取りまとめた9条改憲案は、現行の9条1項、2項をそのまま維持し、自衛隊の根拠を定める「9条の2」を次のように追加するものとなった。

 「9条の2」は1項で、「前条(9条)の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置を取ることを妨げず」とし、「そのための実力組織として、法律の定めるところにより内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」と定める。

 そして2項に、「自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する」と明記した。

 現行9条には一指(いっし)だに触れずに、憲法に新たに自衛隊の根拠規定を書き込むことにより、自衛隊の合憲性を明示する一方で、「実力組織」である自衛隊は9条2項が禁じる「戦力」には当たらないとして、改憲案はこれまでの政府の9条解釈と変わらないということが味噌(みそ)である。

 然(しか)るに今年度の防衛費が約5兆2000億円で、世界の主要国の軍事費では日本はドイツを上回り、イギリスに次ぐ第8位である。主要装備や能力を見ても世界有数の実力を誇る自衛隊が「戦力」でないとは奇々怪々(ききかいかい)と言わざるを得ない。

 安倍首相は「未(いま)だに多くの憲法学者は自衛隊を違憲だと言っている」と批判しているが、その憲法学者の多くは、憲法の条文の厳格な解釈に基づいて、それとあまりにも懸け離れた諸々(もろもろ)の事実や実態を憲法違反だと批判しているのだ。

 現行9条2項の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」を残したままでは自衛隊の根拠規定を如何(いか)に憲法に書き込んでも違憲論を払拭(ふっしょく)できないことは明白であろう。国家の最高法規である憲法の規定は、その解釈に疑いがあってはならないはずだ。

 「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえる」ことを誓い、防衛の任務に生命を懸ける自衛官に違憲であるかのような疑義を寸毫(すんごう)でも生じさせる憲法であってはいけない。因(よ)って現行2項の「戦力の不保持」等を定めた規定を削除すべきである。

 政治は現実で理想を語るだけで結果を出せないのは政治ではない。それでは改憲の国会発議も国民投票も賛成を得ることができないと言うのなら仕方ない。この国は外寇を受けなければ変わらない。尖閣を奪われるか、ミサイル攻撃を受けなければ9条の改憲はできないものと諦観せざるを得ないのである。