衆院選への視点  国内外の「信」得られるか

政治部長 武田 滋樹

衆院選が公示され、第一声を上げる岸田文雄首相(自民党総裁)=19日午前、福島市

衆院選が公示され、第一声を上げる岸田文雄首相(自民党総裁)=19日午前、福島市

 第49回衆院選が公示され、31日の投開票日に向けて12日間の選挙戦に突入した。首相指名の議決で衆院が参院に優越するため、衆院選は事実上の政権選択の選挙だ。現在の自民・公明の連立政権を存続させるか、野党第1党の立憲民主を中心とした(連立)政権への道が開かれるのかが焦点だ。

 いずれの政権を選択するにしても、日本が現在直面している内外の環境は極めて厳しい。新型コロナウイルス感染症は第5波を乗り越えたとはいえ、リバウンドの可能性が残っている。少子高齢化が進む中でコロナ禍でさらに落ち込んだ経済の再生、拡大した経済格差の是正も先送りできない事態に陥っている。

 国際的には、米国と中国の対立局面が続く中、日本の立ち位置の幅は狭まっており、中国が如何(いか)なる犠牲も厭(いと)わない「核心的利益」とする台湾有事が現実的な課題として浮上。同じく「核心的利益」とされた尖閣諸島の周辺海域には中国公船が台風時などを除いて常駐しており、台湾や尖閣を手に入れるための制度や軍事力は絶えずグレードアップされている。

 政府がその針路を一歩間違えば、取り返しのつかない打撃を受けかねない危機的な状況である。それに対処しなければならない次期政権に必要なものは何か。特別なものではない。論語に政治は「民信なくば立たず」とあるように、国民の信頼、国際社会の信頼を得ることだろう。

 信は人と言が合わさった文字だ。言葉を積極的に発信し、それを守らなければならない。国際社会では、日本の立つ基本的な価値観を積極的に発信して、その如(ごと)く行動していかなければならない。

 自公政権は公文書書き換えなどによって信頼性が大きく揺らいだ。菅義偉政権もワクチン接種で大きな進展を見せたものの国民の信頼を得られず、再任の道が閉ざされた。それでも、賃上げによって経済成長の実を分配に回す努力を重ね、外交安保政策においては、自由民主主義陣営の有力な一員として、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を推進してきた。

 その点、立民は「分配なくして成長なし」という検証されていない経済政策を掲げ、外交安保分野では「健全な日米同盟を基軸」と公約しながら、政権を取れば、総選挙政策に「日米安保条約を廃棄」と明記する共産が「安保法制の違憲部分廃止」や「辺野古での新基地建設中止」実現のために閣外協力するという。国民と国際社会の信頼をどのようにして得ようというのか。十分な説明が必要だ。