改憲し強靭な国づくりを
岸田文雄前政調会長が29日、自民党総裁選の決選投票で河野太郎規制改革担当相に大差で勝利し、菅義偉首相(党総裁)の後任となる第27代総裁に就任した。来月4日の臨時国会で第100代首相に就任し、内閣を発足させることになる。
岸田新総裁は就任後初の記者会見で「わが国は今、国難と言われる厳しい状況にある」と切り出し、新型コロナ対策、成長と分配が好循環する新しい資本主義、外交安保政策の三つの覚悟、少子高齢化などに言及。その上で「丁寧で寛容な政治」で国民の一体感を取り戻す決意を表明した。
岸田氏が明示して「国難」と呼んだのは新型コロナによる「感染症有事」だが、北朝鮮が核開発の一方で日本を射程に入れた多様なミサイルを相次いで発射し、武器使用も可能な中国公船が沖縄県・尖閣諸島沖の接続水域にほぼ常駐し、領海侵入を繰り返している安全保障上の危機。さらに、安倍晋三首相(当時)が国難と呼んだ少子高齢化や人口減少もそれに含まれよう。
これらの「国難」は戦後の日本が初めて直面し、従来の国の仕組みでは対応が困難な点で共通している。早急に法律を整備して、国難に打ち勝つ強靭(きょうじん)な国づくりを進めなければならないが、その足かせとなっているのが現行憲法だ。
米軍主導の連合国軍の占領下で制定された現行憲法は、独立国家として不可欠な国防や緊急事態対応に関する条項が存在しない。当時の米軍の目的は日本の再軍備阻止であり、緊急事態には占領軍が対応するので、必要なかったためだ。
そのため、大災害に対する制度設計と法整備はいつも大きな被害が生じた後で行われ、しかも、緊急時の国の権限と私権制限の範囲が明確でないため、不十分な内容にとどまった。過度な個人の権利の強調で家庭の弱体化が進み、少子高齢化の重荷が直接個人にかかる社会となった。国防の最後の砦(とりで)となる自衛隊に至っては憲法に根拠規定すらないため、解釈変更を積み重ねながら組織や活動範囲が決められてきた。
憲法が戦後、民主主義国日本建設に大きな役割を果たしたのは事実だが、このような不備や、制定後70年以上たって現実にそぐわない部分も多い。岸田氏は総裁選の討論で、自民党の改憲たたき台素案4項目について、任期内に少なくとも改憲のメドを付けると表明した。国難克服に向けて憲法改正にまで踏み込んだ、強靭な国づくりに挑戦してもらいたい。
政治部長 武田滋樹