横綱の父
現役引退を申し出た大相撲の横綱白鵬関。7年ほど前、その父親、ジジド・ムンフバトさん(故人)が来日した折、都内で開かれた歓迎会にうかがったことがある。モンゴルの民族衣装を身に着け無口で小柄だが、70歳を超えて矍鑠(かくしゃく)としていた。
その後、客たちの目を離れ舞台裏の通路を行く姿を見たのだが、関が文字通り三歩下がって、父親の後を付き従っていった。親子の日常の接し方を目撃した思いでとても感動した。モンゴル社会の父権の強さを見たようでもあった。
ムンフバトさんはレスリング選手として1964年東京大会から五輪に5大会連続出場。68年メキシコ大会では87㌔級で銀メダルを獲得した。あの威厳はさもあらん、この親にしてこの子ありである。
気流子宅の近所に以前、日本人とモンゴル人の夫婦が住んでいて知り合った。未就学の息子と娘がいたのだが、息子に対しては格別にしつけが厳しかった。たくましく、強くということだった。
モンゴルでは子供の教育やしつけは夫人の役目だそうで、オーバーアクションに加え大きな叱声が飛ぶことも。近所の人が虐待ではないかと誤解し当局に通報したこともあった。
今、角界では横綱照ノ富士関をはじめ、上位にモンゴル出身者がたくさんいる。ハングリー精神が旺盛である一方、その奥に何となく余裕やユーモアを感じさせる魅力の関取たちである。何より日本語がたいそう上手(うま)い。頑張れ、日本の力士たち!