緊急事態解除 少しずつ日常を取り戻そう
政府は新型コロナウイルスに関する対策本部で、19都道府県に発令中の緊急事態宣言と8県に適用中のまん延防止等重点措置を今月末で全面解除することを決めた。全面解除は約半年ぶりだ。警戒を緩めず、少しずつ日常を取り戻していきたい。
新規感染者数の大幅減少
新規感染者数の大幅な減少、医療体制の改善が、専門家が指摘する解除基準を満たしたことを受けての決定である。改善の理由については詳しい分析が必要だが、やはりワクチン接種と治療薬の普及が進んだことが大きいと思われる。
菅義偉首相は、既に全国民の69%がワクチンの1回接種を終えたと指摘。米国の接種率を超え、このまま進めば日本は世界で最もワクチン接種の進んだ国になると述べた。「総理に就任してから新型コロナ対策に明け暮れる日々だった」と振り返り、悩み苦しんだ中で「たどり着いたのがワクチンと治療薬だった」と強調した。
緊急事態宣言が発令され、さらに何度も延長されたが、一種の慣れの中で、人流の大幅な減少や人々の行動の大きな変容はなかった。そういう中で、東京ではピーク時に5773人に達した1日当たりの新規感染者も200人台にまで減ったのは、やはりワクチン効果によるところが大きいと思われる。
また、病床利用率も全ての都道府県で25%を下回った。ワクチン接種は重症化を防ぐ大きな効果をもたらしている。
「今後はウイルスの存在を前提とし、社会全体の対応力を高め、次の波に備えながら感染対策と日常生活を両立することが重要だ」として菅首相は①医療体制のもう一段の整備②着実なワクチン接種③日常生活の回復――の三つの方針を示した。
医療提供体制は、冬場の感染拡大を想定して、今のうちに十分に整えておきたい。ワクチン接種も着実に進め、3回目接種も時期が来たら始めるべきだ。ワクチンの接種証明に関するルールづくりも急がれる。
新たな基本的対処方針では、飲食店での酒の提供を認め、営業時間は9時までとなる。イベントの収容人数は、大規模施設で上限1万人、そのほかは上限5000人ないし定員の50%とする。これを1カ月続け、その後状況を見ながら緩和する。
飲食業や旅行業をはじめとして宣言解除を歓迎し、この日を待ち望んでいた人も多い。ただ、解除によって一気に警戒が緩むことを危惧する声も強い。
東京都の小池百合子知事は「ここで気を緩めれば再び感染拡大を招きかねない。リバウンドによる再度の医療の逼迫を避ける実効性のある対策をとる」と述べている。大阪府の吉村洋文知事も「どうやったらコロナと共存できるのか、少しずつ緩和しながら模索していくことが重要」と述べた。
まだ見えぬ完全収束
今回の宣言解除は、ワクチン接種と治療薬の普及という背景があることから、これまでとは違う状況が期待できる。ただ、完全に収束が見えたわけではなく、ウイルスとの共存は避けられない。日常を取り戻すには、やはり段階的な緩和の道を手探りで進んでいくしかない。