那覇軍港の移設問題、玉城知事は浦添市民の民意を無視
松本浦添市長の面会要請拒む
米軍那覇軍港の浦添市への移設をめぐり、移設容認のはずの玉城デニー県知事の言動は煮え切らない。玉城氏は昨年9月に知事に就任してから半年後、軍港受け入れ先の松本哲治浦添市長と協議したが、それ以後は協議要請に一切応じていない。(沖縄支局・豊田 剛)
移設容認姿勢も明確な説明なし、共産・社会は強い反対
「軍港移設計画をめぐり、5カ月ほど前から沖縄県に話し合いを求めている。部長級を県庁に送っても相手にしてもらえず、らちが明かないので、自らが何度も県庁を訪れ、知事との面会を求めた。ところが、軍港移設は事務調整の話だと言って会ってくれない。協議内容を事前に伝えているにもかかわらず、『知事との協議内容がより具体的に分からないと日程調整できない』と回答してきた」
松本市長は本紙とのインタビューでこう語り、県との軍港移設協議が進まない背景に触れ、不満を示した。さらに、同市長は「知事は辺野古移設反対のためならば米国にも東京にも行くのに、軍港移設ではなぜ隣の市長に会ってくれないのだろうか。今の県政は『地元の民意』『自己決定権』と強調するのに、地元の声に耳を傾けようとしない。特別扱いしてくれと求めているのではない。フェアに対応してほしい」と強い批判を続けた。
那覇軍港は、那覇空港に接していて、市街地にも近い好立地にある。2001年、当時の浦添市長が代替施設受け入れを表明したことで、日米両政府は浦添市埠頭への移設に合意。返還時期は「2028年またはその後」となっている。
松本氏は2017年2月に行われた市長選で、軍港の浦添移設を容認して2選を果たした。「日米安全保障条約、在日米軍再編のこれまでの取り組み、日米両国政府の合意に基づいて引き取る必要がある」との立場を取る。
「移設を進めるためには、県、那覇市、浦添市の3者が足並みをそろえる必要がある。那覇軍港を移設することが沖縄県にとって大きなプラスになる。浦添市としては小さなマイナスかもしれないが、トータルでは県全体がプラスになるのであれば、当然受け入れる」と強調した松本氏は、「だからこそ、浦添市民が納得できる形で軍港を造ってほしい」と要求していると語った。
移設の当事者は県、那覇市、浦添市だ。元知事で那覇市長でもあった翁長雄志氏は生前、浦添移設を推進していた。
那覇軍港移設について翁長氏は、①「新基地」ではなく「代替施設」②「県内移設」ではなく「那覇港湾区域内の移動」③埋め立て行為は自然破壊を伴うが、経済波及効果や産業振興の将来性を考慮すればやむを得ない――の3点を主張。玉城知事はその考えを踏襲しているはずだ。
那覇軍港移設は、普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設と並ぶ在日米軍再編の柱である。翁長氏も玉城氏も、なぜ辺野古移設は認めず、浦添移設なら容認するのか、納得できる説明をしていない。
玉城県政を支援する「オール沖縄」の政党・団体の中でも、共産と社民両党は軍港移設に強く反対している。「翁長知事の遺志を受け継ぐ」ことを公約に掲げて当選した玉城氏は、移設を円滑に進めたい一方、革新勢力の抵抗を受け、苦しい立場に置かれている。翁長氏の後継として2014年に那覇市長に就任した城間幹子氏も同様の境遇に立たされている。
軍港移設について松本氏は3月、県と那覇市に対して「要望書」を提出。軍港を受け入れる側として「県と那覇市の基地負担を軽減し、基地問題でこれ以上混迷することを回避するため、浦添市が苦渋の決断で受け入れ先となることを覚悟している」と主張し、計画の進展を求めた。
松本氏は、軍港受け入れの条件として、日米両政府が合意した案より数百メートル南側にずらすことを要望している。現行案だと、今年6月にオープンしたショッピングセンターの正面に位置し、今後完成されるビーチの正面にもなる。一方、県や那覇市は、民間港に近い南側に移すと物流産業の発展が阻害されるとして難色を示している。
軍港移設について協議するのは県、那覇市、浦添市で構成される那覇港管理組合(管理者は県)。もう一つは、国、県、那覇市、浦添市、管理組合が参加する那覇軍港移設協議会だ。いずれにも参加資格のない松本氏は「受け入れ当事者が参加できない仕組みを変えてほしい」と、県や関係機関に対し両方の協議への参加資格を求めている。
玉城氏は8日、松本市長と面会しない理由について自身のツイッターで「行政の首長は、日程管理を担当部局に任せていて、さまざまな業務案件の取り扱いを日々の業務説明と外部からの面談希望とのバランスを勘案」していると説明しているのみで、協議要請に応じる気配はない。