結論ありきの辺野古阻止議論
「万国津梁会議」、初回は「人権・平和」がテーマ
バランス欠く委員の選考
沖縄県は5月30日、米軍基地のあり方など、沖縄の将来像について有識者が議論する「万国津梁(しんりょう)会議」の初会合を県庁で開いた。ただ同会合は米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設阻止を前提に話し合うもの。県と政府の間の溝はますます深まりそうだ。(沖縄支局・豊田 剛)
自民県連は実効性に疑問、知事の海兵隊不要論に拍車も
万国津梁会議のテーマは「人権・平和」「情報ネットワーク」「経済・財政」「人材育成・教育・福祉・女性」「自然・文化・スポーツ」の五つの分野。各会議とも5人程度の委員で構成される。
初回は「人権・平和」で在日米軍の駐留のあり方を議論した。委員はジョージワシントン大学のマイク・モチヅキ准教授、元外務省国際情報局長で東アジア共同体研究所の孫崎享氏、元官房副長官補で国際地政学研究所の柳沢協二氏、沖縄国際大学の野添文彬准教授、琉球大学の山本章子講師。5人とも、在日米海兵隊の縮小と辺野古移設の不要を持論としている。
冒頭、知事は「若い人たちに平和で豊かな誇りある新しい時代にふさわしい沖縄を託したい。課題解決に向け、この会議に大いに期待を寄せている。提案をいただけば、県の政策や取り組みに速やかに反映する」とあいさつした。
「平和で豊かな誇りある」沖縄とは、翁長雄志前知事がしばしば使用した言葉だ。玉城氏は、「県民の目に見える形での基地負担の軽減が求められている。沖縄の厳しい状況を踏まえ、日本と東アジアを取り巻く安全保障環境の変化を分析し、在沖米軍の駐留の必要性を再点検し、基地の整理縮小に向けた議論を願う」と述べ、会議場を後にした。
マスコミに公開されたのはここまでだった。
議長を務めた柳沢氏は会合後、「沖縄県民と東京の日本の政府との間に、これだけ大きな溝があるというのは、本当にどちらにとっても不幸だ。何とか突破口が見つからないかというのが率直な思いだ」と述べた。
玉城知事は31日の記者会見で、会合では①日本を取り巻く安全保障環境の変化②在日米軍の駐留のあり方③在沖海兵隊の駐留の必要性④日米特別行動委員会(SACO)合意の検証⑤米国の戦略の変化⑥日米地位協定の改正――について議論されたことを明らかにした。
万国津梁会議は、仲井真県政の時に打ち出され、沖縄の未来像を描いた「沖縄21世紀ビジョン」を実現することが目的。今年度は「人権・平和」のみを扱い、四半期に1度開かれる予定。玉城県政の最重要政策が辺野古移設反対であることを証明する形だ。
ただ、玉城氏の在沖米軍基地に対する考え方は、5人の委員よりも急進的だ。同日の記者会見で米海兵隊の沖縄駐留の意義について問われると、「海兵隊が沖縄に駐留しなくても、日米の安全保障体制を毀損(きそん)することはないという考えもあろうかと思う」と述べた。海兵隊の抑止力については「海兵隊のみが抑止力として強調されるものではない。それ以外の戦力でも十分、対処可能なのではないか」とも述べた。
玉城氏は14日、米政府と軍関係者宛ての書簡で、「米国は海軍と空軍によって中国、北朝鮮問題に対応することができる力を有する」と述べ、在沖海兵隊不要の考えを改めて表明。辺野古移設抜きの普天間飛行場の早期運用停止を求めた。
仲井真県政の2013年には「万国津梁フォーラム」と称するシンポジウムが開催された。シンポジウムはすべて公開され、東京大学大学院の高原明生教授をはじめ、日米韓と中国、台湾の安全保障問題専門家がパネリストとして参加。米中のパワーバランスや尖閣諸島の領土領海侵犯の問題を含め、「世界の安全保障環境からみた沖縄」という幅広い視野で意見交換を行った。
当時、フォーラムに関わった県政の元幹部は、「万国津梁会議の委員5人のバランスが取れておらず、結論ありき。提言が出たとしても、日米両政府はまじめに相手にするとは思えない」と批判した。また、「委員の候補が少なく、ベストな人選ができなかった」(県政幹部)、「既定路線で、新鮮味がない」(与党県議)など、身内からも厳しい評価が相次ぐ。
今年度の万国津梁会議の予算が約2900万円を見込んでいることについて、自民党沖縄県連幹部の一人は、「ほかに優先すべきことは山ほどある。会議の実効性を含めて疑問視している」と述べ、知事を追及する構えを見せた。