辺野古移設工事差し止め訴訟、那覇地裁が県の訴えを“門前払い”

宜野湾市民は控訴願わず

 米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設をめぐり、県が国を相手取って工事差し止めを求めた訴訟で、県の訴えが却下された。さらに、2015年に翁長雄志知事がジュネーブで行った国連演説は「資格外」で「公私混同」だと沖縄県民から訴えられており、知事は苦しい立場に立たされている。(那覇支局・豊田 剛)

翁長知事の国連演説に「資格外」と県民が批判

那覇地裁が県の訴えを“門前払い”

敗訴を受けた記者会見で厳しい表情の謝花喜一郎知事公室長(右)と原告代理人弁護士ら=14日、沖縄県庁

 米ワシントンの訪問を終えた翁長知事は16日、「『辺野古移設が唯一』(という政府の主張)を崩して別のどこかに持っていく実現の可能性は厳しいと感じてきた」と率直な感想を述べた。2014年12月に知事に就任して以来、4度目のワシントン訪問だったが、最大の目的である辺野古移設阻止への手掛かりや共感は得られていない。県は辺野古に代わる代替案は何ら提示していない。

 帰国後に翁長氏を待ち受けていたのは「敗訴」という厳しい現実だった。

 17年7月、知事の許可を得ずに辺野古の岩礁を破砕するのは違法だと県側が主張、那覇地裁に提訴していたもの。森鍵裁判長は判決理由で、自治体が条例や規則に従うよう求める訴訟は起こせないとする過去の最高裁判例を踏まえ「審判の対象にならず、不適法だ」と指摘、国の主張を認めた。

 翁長氏は15年に仲井真弘多(ひろかず)前知事の埋め立て承認を取り消し、国との訴訟合戦に発展。16年末に最高裁で県側敗訴が確定した。別の角度から争った今回も県の敗訴となった。

 県の訴えが却下されたことを受け、4月から副知事就任が決まっている謝花喜一郎知事公室長は「県が主張した漁業権の有無についても全然判断されていない」と、事実上の“門前払い”に不快感を示した。

 また、宜野湾市民の安全な生活を守る会の平安座唯雄会長も県庁記者クラブで記者会見を開いた。同会は、翁長氏が普天間飛行場の危険性除去をいたずらに遅らせることにより、宜野湾市民の安全な生活を脅かしていると主張。15年10月、県と翁長氏に損害賠償を求めて那覇地裁に提訴していた。

 平安座氏は、「却下という結果を良しとしたい」と判決を評価。「県が、辺野古移設という日米合意の邪魔をするのが理解ができない」と、翁長氏を批判した。その上で平安座氏は「翁長知事は3月11日に出発し、おかしなタイミングだと思った」と指摘した。同日は石垣市長選の投開票日で、その2日後が判決日だったからだ。平安座氏は「米政府関係者との面談すら決まっていない中で訪米したのであるから、数日ぐらい予定をずらすことはできたはずだ」と強調した。

 同会の原告代理人を務めた徳永信一弁護士は「翁長知事には普天間飛行場の危険にさらされている宜野湾市民に向き合っていこうとする思いがあるのか」と疑問を呈した上で、「知事には控訴せず、1日も早い危険性除去に努めてもらいたい」と訴えた。

 こうした宜野湾市民の願いも届かず、翁長氏は控訴する意向を示している。

那覇地裁が県の訴えを“門前払い”

国連演説違法訴訟で原告団らを前に報告する我那覇真子氏(左)

 翁長氏の訴訟の“苦しみ”はこれだけではない。同氏が15年9月にスイス・ジュネーブの国連人権理事会で演説したことについて、県民18人が連名で渡航費返還を求める訴訟を起こしている。16日に第1回口頭弁論が那覇地裁で開かれた。

 国連演説に際し、翁長氏と職員2人に渡航費227万円が支払われたが、同氏があくまでも“私人”として演説したものであり、全額返還せよと訴えている。

 翁長氏はNGO「市民外交センター」(代表・上村英明恵泉女学園大教授)から発言枠を譲り受け、2分間演説した。ただ、国連人権理事会の規則によると、地方自治体の首長の演説は認められていない。一方、私人として発言した場合は、翁長氏の出張は公務ではなくなる。

 ジュネーブで演説した原告の我那覇真子氏は市民外交センターの狙いを不審に思った。訴訟報告会で我那覇氏は、「上村代表は国連の調査報告をする人にロビー活動し、沖縄がいかに先住民の権利を得られるか工作していたことに驚いた」と指摘した上で、「公私混同の“公”は翁長にとっては(沖縄県ではなく)“琉球王国”なのではないか」と語った。

 「沖縄県政の刷新を求める会」代表で原告の江崎孝氏は、翁長氏が「自己決定権をないがしろにされている」と演説したことについて、「沖縄県民は翁長知事を選んだが、“民族自決権”など個人的なイデオロギーを世界で発表するよう委任していない」と痛烈に批判した。

 原告代理人の徳永弁護士は、「県は翁長氏が演説することは資格外と知りながら予算を付け、その情報を開示しなかったことが問題だ」と指摘した。

 辺野古移設阻止を公約に掲げている翁長氏に残された手段は、辺野古移設の是非を問う県民投票の実施か、仲井真前知事による埋め立て承認の撤回ぐらいだろう。いずれにしても国を敵に回し、県民の同情を得ようとする作戦だ。辺野古移設阻止の在り方について「オール沖縄」内部でも温度差がある。秋の県知事選を視野に、翁長氏はこれらのカードを切るのか否か、が注目されている。